今回のカジノ法案は事業者が賭け金を貸せる。ギャンブルにのめり込んでいる人は負けを取り返すためさらに賭ける。カジノで賭け金を貸すことは胴元が利用者の勝ちたいとの心理につけ込む事になる

カジノ事業者の金融業務 胴元が賭け金貸す危うさ

毎日新聞2018年6月26日

カジノを解禁するための統合型リゾート(IR)実施法案が、延長国会の対決法案となっている。参院の審議が近く始まるが、衆院段階で新たに論点になったのが、カジノ事業者による金融業務だ。事業者が賭け金を貸す仕組みが許されるのか徹底的に詰めてほしい。

法案によると、カジノ施設内では、現金自動受払機(ATM)の設置や貸金業者による営業が禁止される。ところが、外国人と一定の預託金をカジノ事業者に預けた日本人に対し、事業者が賭け金を貸せる。

ギャンブルにのめり込んでいる人は、負けを取り返すためさらに賭ける。カジノで賭け金を貸すことは、胴元が利用者の勝ちたいとの心理につけ込むことにつながる。依存症を生み出す恐れがある危うい行為だ。

預託金の額は、法成立後にカジノ管理委員会規則で定めるという。政府は、富裕層を想定した制度で、日本の実情に合った金額にすると説明するが、額の設定次第では、借金ができる層が広がる懸念がある。

貸金業法は、返済能力を考慮し、利用者の借入金額を年収の3分の1に制限している。カジノの貸し付けが、こうした規制の対象にならないのも大きな問題だ。カジノ事業者は貸金業者ではないためだ。

事業者は信用機関を通じ利用者の資産などを調査し、返済可能とみられる額を個々に設定できる。しかも、貸付金の額は預託金の額とは無関係に決められる。

政府はカジノを外国人観光客の増加に結びつけたいと説明するが、日本人の利用が多くを占めるとみられている。ターゲットと目されているのが富裕高齢者の余剰資金だ。仮に年金収入しかない高齢者でも、退職金などのまとまった資産があれば、事業者が多額の賭け金を貸し付ける可能性はあるだろう。

当初1万5000平方メートル以下だったカジノ面積の数値制限がなくなり大規模カジノの設置が可能だ。こうした点を含め、法案が事業者の利益を優先している実態が読み取れる。

他国のカジノでも、条件付きで利用者に賭け金を貸す制度がある。ただし、日本は世界最高水準の規制をうたう。手持ち以上の資金で賭博を可能とする仕組みは、ギャンブル依存症対策に逆行する。


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生活保護世帯の子どもは現行制度では、高校卒業後の就職が原則になっている。このため大学などに進学すると親と同居していても「世帯分離」の手続きをとらねばならず、その子どもは保護対象から外れる。

生活保護世帯 厳しい現実 大学生 親の支援年5万円

東京新聞2018年6月26日


厚生労働省は二十五日、生活保護世帯から大学などに進学した学生と、学生全体の年間平均収入を比較する初めての調査結果を公表した。家庭からの給付額をみると、生活保護世帯出身の学生が年間五万五千円なのに対し、全体世帯は百十八万一千円。



アルバイト収入は生活保護世帯の年間六十三万七千円に対して、全体は三十五万六千円だった。家庭からの少ない給付を補うため、生活保護世帯の学生がアルバイト収入に頼らざるを得ない苦しい生活事情が浮き彫りになった。 (編集委員・上坂修子)

 

調査は国会の求めに応じ民間業者に委託し、昨年末に行われた。二〇一七年四月時点に大学、短大、専修学校などに在籍し、保護世帯出身で自宅から通う学生約四千五百人を抽出し調査票を送付。約二千人から回答を得た。学生全体については、日本学生支援機構の「一六年度学生生活調査」結果を活用した。

 

保護世帯出身学生の年間平均収入の内訳をみると、家庭からの給付とアルバイト収入に加え、奨学金が百七万七千円。奨学金を利用している割合は87%だった。奨学金の年間受給額の分布を見ると、百万円以上百五十万円未満が最も多く、四割を超えていた。奨学金の種類は、将来、返済しないといけない貸与型がほとんどだった。

 

学生全体の年間平均収入の内訳は、家庭からの給付とアルバイト収入に加え、奨学金が三十八万五千円だった。奨学金を利用している割合は49%だった。保護世帯の子どもは現行制度では、高校卒業後の就職が原則になっている。このため大学などに進学すると親と同居していても「世帯分離」の手続きをとらねばならず、その子どもは保護対象から外れる。「世帯分離で保護費が減額されることが進学に影響したか」との質問に、62%が「影響した」と答えた。

 

生活保護世帯出身の学生が、大学進学前から経済的に苦しい状況に置かれている実態も明らかになった。高校に通っている頃のアルバイト収入の使い道では、進学のための費用が48%、家計に入れる費用が24%、クラブ活動、修学旅行のための費用が17%だった(複数回答)。

 

保護世帯の子どもの大学などへの進学率は一七年、35%だった。全体の73%の半分以下にとどまる。




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森友文書 政治家はなぜ利用されたのか 安易な照会に手を焼く財務局 

森友文書 政治家はなぜ利用されたのか 安易な照会に手を焼く財務局 

毎日新聞2018年6月27日


学校法人「森友学園」への国有地売却を巡る問題は、学園の名誉校長を務めていた安倍晋三首相の妻昭恵氏や、複数の政治家の「関与」が取りざたされ、野党の追及が集中している。ただ、交渉にもっとも多く関わった政治家となると、残された記録からは鴻池祥肇元防災担当相の名がまず浮かぶ。



「鴻池の事務所は金融、カネ、不動産が、最も苦手で大嫌いな話。野党のある男が、わしが関係しているようなことを言いよったが、してへんがな」。森友学園を巡る問題が発覚して1カ月足らずの2017年3月1日。関与がささやかれていた鴻池氏は東京都内で記者会見を開き、気色ばんで反論した。

会見の席で、鴻池氏は14年4月、学園理事長の籠池泰典被告と学園が運営する幼稚園副園長の妻諄子被告と面会し、その場で現金が入っていたとみられる封筒を渡されたと怒り、その後は夫妻との縁は切れていると強調。そしてこう続けた。

「俺は、政治家として男としての生き様を、あいつに泥塗られたんや。だから安倍さんも奥さんも気の毒や。乗せられたんや」

ただ、財務省が公表した交渉記録によれば、鴻池氏の事務所が国有地取引を巡って財務省と直接やり取りしたのは計4回。鴻池氏が関係を絶ったとした14年の後も、16年3月に秘書が近畿財務局に問い合わせをしていた。回数、期間ともに他の政治家を上回る。

13年6月28日。籠池理事長は近畿財務局を訪れ、はじめて国有地購入の意思を伝えた。そのわずか2カ月後の8月13日、鴻池氏の秘書が早くも近畿財務局の担当者に電話をかけ、学園の依頼を近畿財務局側に伝えるメッセンジャーの役割を果たしている。

依頼内容は国有地を即時購入するのではなく、一定期間借りた後に売買契約を結びたいというもの。籠池理事長には国有地を購入する資金がなかった。近畿財務局の担当者はすぐに土地を管理する国土交通省大阪航空局に連絡を入れ、さらに2日後には財務省理財局にも説明。結果として、秘書を通じた依頼は認められた。

後に改ざんされることになる近畿財務局の決裁文書には、「※本件は、平成25年8月 鴻池議員から近畿局への陳情案件」とのただし書きが添えられていた。鴻池氏の存在が局内で広く認知されていたことが分かる。

毎日新聞は鴻池氏の秘書が籠池理事長の陳情を記録した「陳情整理報告書」を入手した。報告書はA4判6枚。一部を紹介する。

(13年)9/9 籠池理事長「小学校用地の件。財務局より賃貸後の購入でもOKの方向。賃借料を『まけて』もらえるようお願いしたい」

 9/13 籠池理事長「大阪府庁へ財務局が来て(国有地の貸し付けには)小学校設立認可のおスミ付きが必要と。大阪府は土地賃借の決定が必要と。ニワトリとタマゴの話。なんとかしてや」

 (14年)1/31 籠池理事長「賃料及び購入額で予算オーバー。賃料年間2500万円に。売却予定額7~8億円にするのが希望」

報告書の14年1月31日の欄には、秘書が書いた「※不動産屋と違いますので。当事者間で交渉を!」との悲痛な言葉が添えられていた。ならば、籠池理事長による要求を秘書はなぜ断らなかったのか。

 ◇    ◇

交渉記録には、鴻池氏のほかにも複数の政治家の秘書が照会する場面が残されている。

そのひとつが15年6月4日。財務省近畿財務局長、冨永哲夫氏(現国土交通省政策統括官)の元に大阪選出の自民党、柳本卓治参院議員の秘書が電話をかけるやり取りだ。「森友学園の籠池理事長が貸付料が高額であり、何とかならないかと言ってきている」

電話の1週間前。学園と近畿財務局は大阪府豊中市の国有地の定期借地権契約を結んだ。賃料の年2730万円は学園の希望に近い。しかし、籠池理事長は契約を交わした後も賃料を不服として近畿財務局に抗議。近畿財務局は無理筋の要求に応じることなく、籠池理事長の要求を拒否していた。

交渉記録によると、不在の局長に代わって応対した国有財産担当の管財部長が秘書に理解を求めた。「不動産鑑定士の鑑定評価に基づき、貸し付け契約の予定価格を決めた。森友学園とも合意している」。柳本氏の秘書は「状況は理解した」と述べた後、次のように語っている。

「籠池理事長に会うのなら、柳本議員から局長に連絡があった旨伝えてほしい。こういう商売をしているので、持ち込まれた話は聞かなければならないが、(理事長から)毎日のように電話を受けて困惑している」--。秘書から飛び出した「こういう商売」という言葉からは、政治家がいかに日常的に陳情を受け入れているかが分かる。秘書にとって、支持者らからの無理難題を聞くことも業務の一環なのだろう。

財務省が公表した交渉記録からは、少なくとも国有地の貸付賃料や、その後の売買での約8億円の値引きについて、政治家側の照会が直接影響した記述は見られない。ただ、近畿財務局の担当者が度重なる問い合わせに手を焼いていたことは間違いない。

担当者は政治家からの照会に備えて想定問答まで作成していた。回答は「賃借料は鑑定評価により客観的に算出されるもの」「随意契約では、会計法令で定める要件を担保する必要がある」など、どれも基本的なルールばかりだった。それほどに、政治家側からの安易な問い合わせは続いたということだ。

そして、安易な照会のなかに、首相の妻である昭恵氏の秘書が含まれていたことが、問題を複雑にすることになる。

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スウェーデンでの雇用は赤字経営となった企業は救わないが、働く人は守る。

<北欧に見る「働く」とは> 企業は救わず人を守る

東京新聞2018年6月25日
 

赤字経営となった企業は救わないが、働く人は守る。スウェーデンでの雇用をひと言でいうとこうなる。経営難に陥った企業は残念ながら退場してもらう。しかし、失業者は職業訓練を受けて技能を向上し再就職する。積極的労働市場政策と言うそうだ。

 

かつて経営難に陥り大量の解雇者を出した自動車メーカーのボルボ社やサーブ社も、政府は救済せずに外国企業に身売りさせた。そうすることで経済成長を可能としている。だから労使双方ともこの政策を受け入れている。

 

中核は手厚い職業訓練だ。事務職の訓練を担う民間組織TRRは労使が運営資金を出している。会員企業は三万五千社、対象労働者は九十五万人いる。TRRのレンナット・ヘッドストロム最高経営責任者は「再就職までの平均失業期間は半年、大半が前職と同等か、それ以上の給与の職に再就職している」と話す。

 

スウェーデンは六年前から新たな取り組みも始めている。大学入学前の若者に企業で四カ月間、職業体験をしてもらい人材が必要な分野への進学を促す。王立理工学アカデミーは理系の女性、日本でいうリケジョを育成する。この国には高校卒業後、進学せず一~二年、ボランティアなどに打ち込むギャップイヤーという習慣があり、それを利用する。

 

研修を終えたパトリシア・サレンさん(20)は「生物に関心があったが、研修でバイオ技術とは何か分かった。医学も含め幅広い関心を持てた」と話す。この秋からバイオ技術を学ぶため工科大に進学するという。

 

以上が世界の注目するスウェーデンモデルだ。解雇はあるが訓練もある。だから働き続けられる。日本は終身雇用制でやってきた。だが低成長時代に入り人員整理も不安定な非正規雇用も増大する。

 

人がだれも自分にふさわしく働き続けられるようにするには、日本でも新たな取り組みが必要になろう。北欧に、そのヒントはないだろうか。(鈴木 穣)




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廃炉が決まった高速増殖原型炉「もんじゅ」の後継として日本が協力を表明しているフランスの高速実証炉「アストリッド」計画の大幅な縮小方針。日本の「核燃料サイクル」政策にさらなるほころびが生じた。

仏アストリッドの計画縮小 「見果てぬ夢」浮き彫りに

毎日新聞2018年6月24日

原発の使用済み核燃料を全量再処理し、取り出したプルトニウムを高速増殖炉で再び使う。事実上破綻している日本の「核燃料サイクル」政策にさらなるほころびが生じた。

廃炉が決まった高速増殖原型炉「もんじゅ」の後継として日本が協力を表明しているフランスの高速実証炉「アストリッド」計画の大幅な縮小方針だ。

出力は当初予定の3分の1以下で「もんじゅ」より小さい。これで実証炉としての役割を果たせるのか。疑問の声が上がるのは当然だ。しかも、アストリッドを建設するか否かを決めるのは2024年。次の実用炉を造るかどうかの決定は60年ごろ。ゴーサインが出たとしても実際に造るのは80年ごろという。

ここから浮かぶのは高速炉先進国のフランスでさえ実用化を念頭においていないということだ。アストリッド縮小の背景としても「実用炉には緊急性がない」と認めている。

かつて核燃料サイクルが構想されたのは、ウランが不足し燃料のリサイクルに経済性が生まれると考えられたからだ。しかしウランは十分にあり、一方で、高速炉の実現は難しく、経済的にも見合わないことが明らかになった。米英独など主要国が撤退したのはそのためだ。

原発の先行きが不透明で、財政状況も厳しい日本が、アストリッド計画に費用負担して参加する意味があるとは思えない。参加はやめ、サイクル政策そのものからの撤退へかじを切る好機とした方がいい。

サイクルには別の側面もある。再処理によって生み出されるプルトニウムが核兵器に転用できることだ。

このため日本政府は「利用目的のないプルトニウムは持たない」を原則としてきたが、すでに英仏に37トン、国内に10トン、計47トンものプルトニウムを保有する。青森県の再処理工場が稼働すれば、さらに増える。

本命の高速増殖炉が頓挫した今、プルトニウムを消費できる頼みの綱は普通の原発で燃やす「プルサーマル」だが、これも進むめどはない。

政府の原子力委員会はプルトニウム削減の指針をまとめるというが、サイクル政策を変えずに小手先で対応するのは限界だ。核拡散を懸念する米国や近隣諸国からの批判が強まる前に、路線変更が必要だ。
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所得の低い層を手厚く支える国の施策に異論はないが、高等教育の費用負担は中所得層にも重くのしかかる。奨学金を借り入れざるを得ない学生も多い。逆差別を招かない制度の設計を求めたい。

高等教育無償化 中所得層は置き去りか

東京新聞
 

所得の低い層を手厚く支える国の施策に異論はないが、高等教育の費用負担は中所得層にも重くのしかかる。奨学金を借り入れざるを得ない学生も多い。逆差別を招かない制度の設計を求めたい。

 

家庭が貧しく、高等教育の機会に恵まれなかった子どもも、また貧しくなる。負の連鎖を断ち切るために、国は低所得層に対し、大学や短大、専門学校などに要する費用の負担を軽くする制度の枠組みを決めた。

 

住民税非課税世帯とそれに準じる年収三百八十万円未満までの世帯を対象に、授業料や入学金の学費と生活費を支える。すべて返済不要だ。消費税の増税分を使い、二〇二〇年度から実施するという。

 

近年、大学・大学院卒と高校卒の学歴の違いは、およそ七千五百万円の生涯賃金の格差となって跳ね返るという。教育水準の底上げは、学び手本人はもちろん、社会全体の利益の向上に結びつく。

 

大学に進学する場合、国公立か私立か、自宅から通うか下宿するかなどの条件で費用は変わる。非課税世帯については、子ども一人あたり年間百万円から二百万円ぐらいの支給を視野に入れての議論になるのではないか。その上で、段階的に金額を引き下げながら、年収三百八十万円未満までの世帯を支援する設計となる。

 

限りある財源を、低所得層に優先的にふり向ける考え方はうなずける。けれども、高等教育費の負担は中所得層にとっても重く、少子化の圧力にもなっている。国の奨学金事業を担う日本学生支援機構の一六年度調査では、大学生のほぼ二人に一人は奨学金を利用し、そのうち七割余は年収四百万円以上の家庭の出身だ。在学中はアルバイトに時間を割き、借金を抱えて社会に出る人も多い。

 

たとえば、子どもの人数や要介護者の有無、資産の多寡といった個々の家庭の事情を度外視した仕組みが公平といえるか。少しの収入差で対象から外れる世帯や高校を出て働く人が納得できるか。

 

親が学費を賄うべきだとする旧来の発想に立つ限りは、こうした疑問は拭えないだろう。自民党教育再生実行本部は、国が学費を立て替え、学生が卒業後の支払い能力に応じて返す出世払い制度の導入を唱える。オーストラリアが採用している。学び手本人が学費を賄う仕組みは一案だ。 もっとも、高等教育の恩恵に浴する国がもっと公費を投じ、私費負担を抑える知恵がほしい。慎重かつ丁寧な議論を重ねたい。


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東京電力福島第一原発事故から七年が過ぎた福島県で風力発電所が続々と稼働しようとしているただ政府や大手電力は原発再稼働を優先し送電線を再生エネに開放することには慎重だ。

<原発のない国へ 福島からの風>太陽+風→安定供給 政府は送電線開放渋る

東京新聞2018年6月26日
 

東京電力福島第一原発事故から七年が過ぎた福島県で風力発電所が続々と稼働しようとしている。自然のパワーを総動員し「二〇四〇年までに再生可能エネルギーで県内に100%のエネルギーを供給」を目指す福島県。だが目標の達成には課題もある。

 

海風を受け銀色の羽根がゆっくり回転している。高さ百三十一メートル、羽根の直径は九十二メートル。日立グループや地元企業が四月、福島県南相馬市の海岸付近に三十億円をかけ完成させた「万葉の里風力発電所」だ。「浜通り」と呼ばれる福島県東部最大の風力発電所となる。

 

「原発がなくたってちゃんと電気が供給できることを証明したかった」。出資する地元企業、石川建設工業の石川俊社長(57)は言う。津波と原発事故による放射能汚染が襲った南相馬市。六万人が避難を余儀なくされ、今も一万五千人が故郷を離れたままだ。

 

完成した四基の風車は計九千四百キロワットの電気を生み出し四千五百世帯分を供給。収益は植樹や祭りの復興など地元にも還元する。周辺にあった集落は津波で壊滅。市有地となった広大なさら地には太陽光パネルも建てられ、一帯は再生エネ発電基地の様相だ。

 

隣の飯舘村でも風力発電の起工式が四月に開かれた。村と東京の電気設備会社が出資し高さ百五十メートルの風車二基を十八億円かけて建設。来年春に発電を始め、村は収益を復興に使う。

 

ユニークなのは同じ敷地の太陽光パネルと送電線を共有する「クロス発電」の仕組み。「太陽の光が減る雨のときや夜も風力なら発電できる。供給が安定し送電線も有効活用できる」(飯舘村総務課)という。

 

四〇年までに県内の全エネルギー需要を再生エネで満たす目標を掲げる福島県。太陽光発電が先行してきたが、環境調査に時間がかかる風力発電も立ち上がってきた。太陽光、風力、バイオマスなど各種の発電源が補完し合うことで電気の供給が安定するという。

 

県は風がよく吹く阿武隈山地に風車が集中する「ウインドファーム」もつくる計画で事業者を選定中。数年内に百七十基の風車が立ち並ぶ光景が出現する見通しだ。東電が福島第一原発に続き第二原発の廃炉を決めたことで送電線の「空き」が広がり、東京などに電気を送りやすくなる。

 

ただ政府や大手電力は原発再稼働を優先し送電線を再生エネに開放することには慎重だ。県西部の会津地域では東北電力が「送電線はいっぱい」と主張。風力発電や大規模太陽光発電は新設できず、地元の新電力会社は頭を抱えている。

 

環境エネルギー政策研究所の飯田哲也所長は「福島は風も水力も豊か。再生エネの先進地になる潜在性が十分あるのに、このままでは『100%』の達成は困難。送電枠の開放や地元の発電会社支援に国や県はもっと力を入れるべきだ」と指摘する。 (池尾伸一)



<福島県と再生エネ目標> 福島県は「再生エネ100%」の目標達成のため、大手電力の送電線に接続するまでの送電線建設や再生エネ導入事業への補助金を出す。2016度実績(設備容量)では太陽光92万キロワット、風力17万キロワット、バイオマス20万キロワットなどで再生エネ比率は28・2%。東日本震災前から約7ポイント上昇した。「18年度に30%」の中間目標は達成できる見通し。


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政府の過労死防止対策大綱の見直し案が公表された。「過労死ゼロ」へ取り組みが強化される。ところが国会で審議中の「働き方」関連法案は過労死増が懸念される。根絶への姿勢に疑念が湧く。

過労死対策 ちぐはぐな政府の姿勢

東京新聞2018年6月14日 

政府の過労死防止対策大綱の見直し案が公表された。「過労死ゼロ」へ取り組みが強化される。ところが国会で審議中の「働き方」関連法案は過労死増が懸念される。根絶への姿勢に疑念が湧く。

 

長時間労働を防ぐ“切り札”といわれる制度がある。「勤務間インターバル制度」だ。終業から次の始業まで一定の休息時間を設ける。こうすれば働く人は確実に毎日、休息が取れる。過労を防ぐには月や年間の労働時間規制だけでなく日々の労働時間規制が不可欠だからだ。

 

欧州連合(EU)は十一時間連続の休息時間を加盟国に求める。日本での導入企業は1・4%だ。大綱の見直し案には、二〇二〇年までに導入企業を10%以上とする数値目標を掲げた。制度の周知も課題で、知らない企業の割合を20%未満とすることも定めた。

 

さらに高い目標が望ましいが、数値目標を掲げたことは一歩前進だろう。国会で審議中の関連法案にはこの制度の一般労働者への導入を努力義務とする項目も入る。厚生労働省は導入した企業への助成制度をさらに拡充するなど拡大へ後押しするべきだ。

 

経営者は、従業員が健康で働けることができて初めて企業経営が成り立つと再認識してほしい。毎日一定の休息を取ることで精神的な余裕もでき新しいビジネスが生まれる素地も広がるだろう。

 

大綱は過労死根絶を目指す政府の基本方針を示す。一四年に成立した過労死等防止対策推進法に大綱作成が明記され三年をめどに見直される。今回、見直しが行われ七月に閣議決定される。

 

推進法は家族を過労で亡くした家族会が中心となり実現させた。与野党全会一致で成立、過労死防止を「国の責務」と初めて位置付けた。根絶へ政府の姿勢を示すはずのものだが、過労死が増えると批判のある高度プロフェッショナル制度(高プロ)の創設は、この動きに逆行している。

 

高プロには経営者が講じるべき健康確保策が複数用意される。インターバル制度もその一つだが、どれを選ぶかは労使が話し合う。実際は経営に負担の少ない「臨時の健康診断」を企業が選ぶ可能性が高く、実効性を疑う。

 

法案は参院で審議中だが、過重労働への懸念は払拭(ふっしょく)されていない。高プロ導入に向けて厚労省が行った専門職からの聴取のずさんさも明らかになった。高プロは法案から切り離し再考すべきだ。それが「国の責務」ではないか。

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チョーク製造の日本理化学工業その会社の将来を背負って立つ商品を製造するのも、知的障害がある社員たち。最近は海外からの需要も伸びてきており、当初の期待通り、会社の主力商品に育ちつつある。

<ともに>知的障害者 7割の会社 福祉でなく必要な人材

東京新聞2018年6月15日
 

黄色、赤、青のハートマークに四つ葉のクローバー、チョウチョ…。ガラスに描かれたカラフルな絵が、訪れた人たちを明るく出迎える。チョーク製造の日本理化学工業(川崎市)の玄関だ。

 

社員食堂の窓にも、ハートや音符などの模様が躍る。これらの絵は、同社が十三年前に開発した「キットパス」というクレヨンのような商品で、社員たちが休憩時間などに思い思いに描いた。ガラスのほかプラスチック、ホワイトボードなど、黒板を除く平らな面ならどこにでも描ける。十六色あり、ぬれた布で簡単に拭き取れる。

 

同社は八十年以上、粉末の飛散が少ないチョークを作り続けてきた。学校向けの国内シェアの50%以上を占めているが、少子化や授業の情報技術(IT)化の影響で、チョークの市場は縮小し続けている。それを補おうと開発されたキットパスは、今後の経営を占う、いわば社運を懸けた商品だ。最近は海外からの需要も伸びてきており、当初の期待通り、会社の主力商品に育ちつつある。

 

その会社の将来を背負って立つ商品を製造するのも、知的障害がある社員たち。クレヨン形やブロック形などさまざまな形をしたキットパスは、製造方法が独特。熟練した技術を身に付けた数人が作業する。

 

二十年前に入社した知的障害のある本田真士さんは、開発段階から携わり、現在も製造を担当している。きっかけは、本田さんの趣味が料理だと健常者の社員が知ったことだった。「材料から完成形を想像し、作ることを楽しめるので、キットパスに向いていると思ったんです」と営業部広報課で、障害がある社員たちを支援している佐藤亜紀子さん(43)は話す。

 

本田さんは自閉症の傾向があり、ほとんど言葉を話さない。しかし、集中力に優れ、黙々と作業を続けることができる。わずかでもゆがみや色むらなどがある製品は、もう一度練り直して作り直しているが、そうした不良品を見逃さないことにも秀でている。

 

文字や数字が読めない社員も多く、思いを言葉で表せないため、もどかしさから社員同士でもめることもある。佐藤さんは「健常の社員が間に入ってお互いの気持ちを代弁し、誰が欠けても製品は作れないと伝えている」と話す。障害がない社員たちがサポートし、障害がある社員が能力を発揮することで、競争力のある商品は開発、製造されている。

 

同社は、六十年ほど前から障害者雇用を続けてきた。経営学者・坂本光司さんの著書「日本でいちばん大切にしたい会社」(あさ出版)で紹介され、最近は「幸せを創造する会社」とも呼ばれる。しかし、長年にわたって障害者を雇用し戦力としてきたのは、企業イメージづくりのためでも福祉のためでもない。事業に必要な人を採用し、力を発揮できるよう工夫してきたことが、いま、社会から注目されている。

 

障害者雇用を始めた当初の社長で現在会長を務める大山泰弘さん(85)の長男で、現社長の隆久さん(49)はこう話す。「障害がある人をたくさん雇っているからといって、社会貢献しているつもりはまったくありません。障害のある社員たちにビジネスを含めて会社が支えられ、今日があるんです」




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福島第1原発の重大事故から7年余り東京電力が、ようやく福島第2原発を廃炉にする方針を明らかにした福島第2の存在は避難生活や風評被害に苦しむ県民の心を逆なでしてきた。東電は円滑な廃炉に向けて急ぐべき。

福島第2原発の廃炉 計画の具体化は速やかに

毎日新聞2018年6月15日

福島第1原発の重大事故から7年余り。東京電力が、ようやく福島第2原発を廃炉にする方針を明らかにした。実現すれば、福島県内に10基あった原発はすべてなくなる。

福島第2の存在は、避難生活や風評被害に苦しむ県民の心を逆なでしてきた。東電は、円滑な廃炉に向けた工程表づくりを急ぐ必要がある。

福島第2は東日本大震災の際、第1と同様に津波をかぶった。それでも一部の外部電源が残ったため、重大事故は免れた。

その後も停止したままだが、大量の核燃料は残っている。安全性や将来の再稼働を巡る県民の不安は根強く、県は東電や事実上の筆頭株主である国に、早期廃炉を求めてきた。

再稼働には立地自治体の同意が必要だ。第2の再稼働はもともと、政治的にはあり得ない選択肢だった。

また、第2の4基はいずれも運転開始から30年を超えている。原則40年のルールを延長して稼働するためには巨額の安全投資が必要となる。経営的にも存続させるメリットは乏しかったわけだ。

それにもかかわらず、東電は廃炉決定を先延ばしにしてきた。

廃炉を決めると原子炉や核燃料などを資産に計上できなくなるため、財政基盤が悪化する。東電はそれに耐えられる経営体力が整うのを待っていたとも思われる。

しかし、そんな台所事情があったとしても、十分な説明もせず、うやむやな態度に終始してきたことは誠実さに欠けると言わざるを得ない。

今回、福島県の内堀雅雄知事に廃炉の方針を伝えた東電の小早川智明社長は、第2が「復興の足かせになっている」と認めた。そうであれば、廃炉に向けた準備に早急に着手すべきだ。

東電は福島第1の廃炉という極めて困難な作業を抱えている。重ねて第2の廃炉を円滑に進めるには、資金や人員などの経営資源の配分にも知恵を絞る必要がある。国とも連携し、計画の具体化を急いでほしい。

福島第2が廃炉となれば、東電の原発は柏崎刈羽(新潟県)だけになる。再稼働に向け、地元への働きかけを一段と強めることも予想される。しかし、肝心なのはあくまで安全の確保と地元の納得であることを忘れてはならない。
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