年十兆円の薬剤費の九割は税と保険料が占めるその薬の審査に関わる国の機関の情報公開度に開きがある薬の価格案を算定する審査過程は医薬品のほかの機関と比べても不透明だ
<税を追う>会議非公開 議事録も作らず 製薬会社からの謝金も不明
東京新聞2019年9月8日
年十兆円の薬剤費の九割は税と保険料が占める。その薬の審査に関わる国の機関の情報公開度に開きがある。薬の価格案を算定する「薬価算定組織」の審査過程は、医薬品の承認を審査するほかの機関と比べても不透明だ。会議は非公開で、委員の名前や製薬会社から受け取った謝金も公表されていない。外部からうかがい知ることは非常に難しい状況で、薬の価格が事実上決まっている。
「薬価算定組織」は、厚生労働相の諮問機関・中央社会保険医療協議会(中医協)の下部組織。中医協総会に原則年四回、新薬の価格案を提案している。常時出勤する本委員は約十人で、非常勤の国家公務員に当たる。算定組織が示した案が総会で承認されるケースが多く、事実上企業の利益に直結する権限を持つ。
調査報道団体「ワセダクロニクル」などが製作したデータベースを本紙が活用して集計したところ、二〇一六年度に本委員を務めた十一人のうち、八人が製薬会社から講師料やコンサルタント料、原稿料を受領。最多は十五社から受領していた委員長の千二百十万円で、三人が一千万円を超えた。残りの五人は四百十万~百十万円だった。
算定組織の規程では、本委員は過去三年度のうち、審議の対象となる薬を製造した会社や競合会社からの受領額が五十万円を超える年度があれば、その会社や競合各社の議決に加わることはできない。五百万円を超えれば審議にも参加できないことになっている。
受領額には寄付金や研究費、保有する製薬会社の株も含まれる。本委員は審議前に受領額を申告。厚労省が会社に申告内容が正しいかを確認している。 しかし、本委員の申告に誤りがないか、審議の際にどんな発言をしたかは外部から確認できない。厚労省は委員名や申告内容、議事内容も公開していない。
本紙が情報公開請求したところ、委員の名簿や議事概要は公開されたものの、申告額は非開示だった。議事概要には各委員の発言内容はまったく記載されず、どんな議論がされたかは分からない。一四年に保険適用された際、百ミリグラム当たり七十三万円の価格が付いたがん免疫治療薬「オプジーボ」は算定薬価がいくらになったか、二行で記載されているだけだ。
薬価算定組織を所管する厚労省保険局医療課の担当者は、委員の発言内容を公開しないのは「薬価は製薬会社の株価にも影響する。委員の発言を公表すれば、委員が萎縮して自由な発言を阻害する懸念がある」と説明している。
◆情報は開示すべき
<小野俊介東京大薬学部准教授の話> 厚労省の説明は説得力がない。薬価は製薬会社の利益につながるのだからこそ、製薬会社からの受領額は明示すべきだ。議事内容も結論だけでなく、各委員がどのような意見を述べたのかが分かるようにするべきだ。
◆公開基準 承認審査機関と大差 HPに委員名や議事録
薬の審査を行う国の機関には薬価案を算定する「薬価算定組織」のほかに、医薬品の承認を審査する「薬事・食品衛生審議会」の医薬品第一部会と第二部会がある。 両部会とも委員の医師らが、特定の製薬会社から年間に五十万円超を受領すれば、議決に参加できず、五百万円超なら審議にも加われないが、情報公開度は、薬価算定組織とは大きく異なる。
両部会は厚労省のホームページで、各委員が製薬会社から受け取った講演料などの申告額や部会の議事録を公表。委員がどのような発言をしたかを概ね確認できる。両部会を所管する厚労省医薬・生活衛生局総務課の担当者は「透明性を高めるため、委員の利益相反に関わる情報をできる限り出している」と話す。
情報公開により審議会委員を務める医師らの申告内容の誤りが明らかになったケースもある。二〇一四年度に両部会の委員を務めた委員十六人を含む二十四人の医師らが過小申告しており、うち八人は本来加われない議決に参加していた。
首都圏のある大学病院の医師は「新薬の許認可や薬価を決める立場で講師謝金などをもらうのはルール違反。情報が公開されないと議論の透明性が低くなり、後で問題になる可能性がある」と指摘している。