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安倍の「働き方改革」は「オランダの奇跡」ご都合主義のつまみ食い (2)日本の「働き方改革」は本当に正しいのか?オランダの成功から学べること

安倍の「働き方改革」は「オランダの奇跡」ご都合主義のつまみ食い (2)
世相を斬る あいば達也 2018/2/22


続き ≪日本の「働き方改革」は本当に正しいのか?オランダの成功から学べること


【長坂寿久氏×武田隆氏対談2】

「働き方改革」に取り組む日本にとって、参考になる存在といえば「ワークライフ・バランス先進国」として知られるオランダだ。フルタイムとパートタイムの待遇格差是正や労働時間の短縮実現など、日本が抱える諸課題を解決してきたオランダだが、事ここに至るまでの道のりは決して平坦ではなかったという。かつて「オランダ病」と揶揄された経済の窮状を建て直していったプロセスには、オランダという国を特徴づける“ある文化”が大きく影響していたという。果たしてそれはどのようなものだったのか? オランダ経済に詳しい長坂寿久氏に聞いた。

■水を制御することで 生まれた国、オランダ
武田隆(以下、武田) 前回は、「私・共(公共)・公」という三元論で社会をとらえる「公共哲学」による主権論が存在することを前提とした世界観を持つヨーロッパと、「公・私」という二元論で捉えている日本との違いについてお話しいただきました。
 

日本では育たなかった「公共」という概念が、ヨーロッパ、とりわけオランダで根付いた背景には、オランダという国の成り立ちが関係している。これはどういうことでしょうか?


長坂寿久(以下、長坂) オランダは、ヨーロッパ大陸を流れる3つの川が北海に流れ込む三角州にできた国です。ヨーロッパの人口が増加し、もともと水浸しで住めなかったその三角州の高台にまで入植してきた。そして少しずつ住める場所を増やしていきました。

帆船の時代になると、アムステルという川に堤防(ダム)をつくり、港をつくり、街をつくったのです。


武田 それが現在のオランダの首都、アムステルダムですね。日本で言えば、「黒部ダム」が首都になるようなもので、おもしろいです。


長坂 そうして、自分たちで水を制御して街をつくってきたんです。オランダ最大の空港であるスキポール空港は、「船の穴」という意味を持ちます。スキップが「シップ・船」、それに穴の「ホール」でスキポール。スキポール空港がある場所は、かつて巨大な湖でした。そこで戦いが起こったり、嵐が来たりして、たくさんの船が沈んだ。


武田 船の墓場だったと。 水をかき出して海に流し、干拓 風車の技術力で海外競争力を得た


長坂 はい。そして、水をコントロールするためには、その対等な関係性を踏まえて議論することが必要となります。どうやって洪水を防ぐのか、地域の人たちで侃々諤々と意見を闘わせる。でも、洪水が来るまでには合意(コンセンサス)を得なければいけない。

■激しい議論はあくまで コンセンサスを目的としたもの 武田 洪水を防ぐための議論ですからね。


長坂 当たり前のように思えるでしょう? でもニューヨークに駐在していた時に思ったのは、アメリカの議論はそうではないところがある。アメリカでは、合意のためではなく、自己主張のために議論をするようなところがありますね。
 

オランダ人との議論では、初めての場合にはこちらが恐れを抱くくらい強めに自己主張してくる感じがあります。でも、彼らが目指しているのは合意形成。だから、こちらも意見をはっきり、しかも「なぜ」そうなのかを主張すると、途端に譲歩してくると感じられることがあります。
 

激しい議論に慣れていない私たち日本人はその勢いに怯んではいけない、というのは、オランダ人と付き合うときのポイントとして重要なことだと思います。



武田 忖度するのではなく、お互いに意見をはっきり主張し合った方がいいんですね。そうやって最善のコンセンサスを共同制作していく感覚と言えばいいでしょうか。
 

そのコンセンサスに向けて、とにかくコミュニケーションを続けていかなければいけない。そして、水があふれるまでには合意に至ろうとする。


長坂 みんなで議論するその場こそが「パブリック」、つまり「公共圏」なんです。そこで合意したことが「公共益」で、その公共益を守り、拡げるために私たちは「公」、つまり政府・国家をつくってきたのです。これが公共哲学の主権論です。
 

政府が行うべきことは、この市民の熟議で合意した「公共益」を政策として実行することなのです。だから、オランダのような社会にとっては公共圏での熟議と合意がとても重要なわけです。


長坂 はい。そして、水をコントロールするためには、その対等な関係性を踏まえて議論することが必要となります。どうやって洪水を防ぐのか、地域の人たちで侃々諤々と意見を闘わせる。でも、洪水が来るまでには合意(コンセンサス)を得なければいけない。

■「オランダ病」が 「オランダの奇跡」に変わるまで
武田 合意形成を重視するその文化が、経済的に功を奏した一例が「ワッセナー合意」ということになるのでしょうか。

長坂 そうですね。それにはまず、オランダがその名の通り「オランダ病」に陥り、「オランダの奇跡」と呼ばれる復活を遂げた経緯についてお話ししましょう。 「オランダ病」とは、天然資源価格の高騰によって不労所得を得た資源保有国の政府が、その経済政策運営を誤ったことによりもたらされる経済危機のことを言います。オランダ人にしてみればなんとも不名誉な名称ですが、経済学用語として国際的に定着してしまっています。

武田 具体的にどういうことが起こったのでしょうか。


長坂 オランダの場合は、1960年代以降に北海海底から天然ガスや石油が発見され、その輸出ブームで大儲けしたことで、他の貿易材部門の国際競争力が低下してしまったのです。
 

また、財政収入が増加して政府支出が過剰になり、賃金も上昇し、社会福祉制度が充実した。これがずっと続けばいいのですが、そうはいきません。


武田 一次産品の価格が下落していってしまうわけですね。

長坂 そうなった瞬間に、天然ガスなど資源部門の職場は縮小していきます。資源部門に引っ張られて賃金上昇せざるをえなかった他の産業の競争力が低下していることに気づく。オランダ全体の景気が一気に後退して、はじめは労働組合が「給料をよこせ」「雇用を切るな」と大騒ぎになりました。

武田 とはいえ、企業側もまさに死にそうな状態なんですよね。

長坂 そう、どうしようもないんです。そこで、労働組合、使用者(経済団体)、政府の三者で集まって話し合いをすることになりました。


武田 よく話し合いのテーブルに就くことができましたね。政府は税収が激減、会社は賃金が高止まりしているのに収入は減っている、労働組合は首を切られないように必死、と全員が切羽詰まってにらみ合いをしているような状態なのでしょう?


長坂 もともとオランダでは、昔から話し合いで経済を進めていくという文化があったんですよ。それは、先ほど説明した治水の歴史を背景に育まれたものです。戦後も政労使の話し合いでずっとやってきた。それが天然ガスブームで、話し合いの伝統が途切れたんです。みんなが勝手に自己主張するようになってしまっていたんですね。


武田 不労所得でぐんぐん経済成長していたら、そんな手間をかけて話し合いをしなくても、それぞれの要求が叶えられますからね。


長坂 その右肩上がりのカーブがガクンと落ちた時に、やっぱり話し合いをしなければいけない、となったんです。もう一度、オランダ的な合意形成システムの重要さを思い出したわけですね。それが1970年代後半のこと。そして、1982年に「ワッセナーの合意」に至ります。
 
内容は、政労使三者間で、雇用確保を最優先するために自主的な賃金抑制に合意する、というもの。これが、「オランダ病」克服への第一歩になりました。
 

この合意をベースに、オランダは15年かけて、さまざまな構造改革を行っていきます。その結果、高い経済成長率、失業率の低下、労使関係の安定、財政の黒字化などを達成し、「オランダの奇跡」と呼ばれるようになります。なかでも、特徴的な取り組みがワークシェアリングです。


武田 ワークシェアリング。日本の働き方改革のヒントにもなりそうです。

■パートタイム労働で 人は自由になる
長坂 オランダはいま、「パートタイム経済の国」と言われるほどパートタイム労働者の比率が高く、労働者1人あたりの年間労働時間も短いんです。しかしこれ、不思議だと思いませんか? 政労使三者間で話し合いをしたというのに。


武田 そうですね、労働組合というのはパートタイム労働者をフルタイムに変えていくことを推し進めているのかと思っていました。

長坂 世界の多くの労働組合はそうです。でも、オランダの労働組合では90年代に入って組合員に対して調査を行い、結果としてフルタイム労働者の中に労働時間短縮を希望する人が増えていること、パートタイム労働者はパートタイムのままもう少し長時間の労働を求めていること、がわかったんです。
 

パートタイム労働者たちは、フルタイム労働者になれないからパートタイムで働いているのではなく、自ら望んでいたんですね。
 

オランダ文化の1つは実にプラティカル、実際的という点にあります。経営者側は労働の柔軟性を求めて、パートタイム労働の促進を求めていました。そこで労働組合側は「均等待遇」を条件にパートタイム労働の促進に合意する旨提案し、話し合いを続け、フルタイムとパートタイムで均等待遇をするという労使合意に至りました。


■労組、企業、政府の三者が 痛み分けをして「働き方」を改革
武田 それは、賃金格差をなくすといったことでしょうか。


長坂 賃金格差の是正だけでなく、社会保障や雇用保障の面でも、フルタイムと変わらない待遇にしたのです。労働組合はそれによって賃上げ抑制に協力する。企業は雇用を保障する。そして政府は、財政支出を抑制して所得減税を実行する。


武田 三者が痛み分けをしたわけですね。


長坂 「合意」の極意とは、自分の主張だけを通すのではなくて、お互いが譲歩し合うということです。

武田 なるほど、いったんはみんなが損し合うけれど、そのことによって最終的には三者の利益の総和が高まり、ひいては自分の利益も引き上がるということですね。日本でも働き方改革に関する議論が進んでいますが、政も労も使も「総和としての利益のために、自分も痛みを引き受けよう」という姿勢にはなかなかなりません。


長坂 「オランダの奇跡」は、全員が譲歩することによって達成されました。 制度的には、労働時間差差別を禁止する法律を1996年に導入したのを皮切りに、2001年には働く時間の変更申請を保障する法律や、妊娠・出産休暇、託児所などの制度が急速に整備されていきます。労使が合意した内容を、政府が法律によってオーソライズしたわけです。
 

法的措置を明示的に導入し、実態としてもフルタイムとパートタイムで差別がなくなってきた国というのは、世界でもオランダが初だと考えられます。その結果、オランダの主婦たちがどんどん労働市場に入っていった。でもパートタイムなので、他の国に比べて労働コストの上昇を抑えることができました。


武田 企業としては、賃金上昇を抑制することを通して多くの人材を雇うことができたわけですね。

■米国の夫婦は2.0の働き方を目指し、オランダは「1.5でいい」と考えた
長坂 その結果この国は、労働の柔軟性を高めることにも成功しました。と同時に新しい働き方を獲得していきました。それまでは夫婦どちらかだけがフルタイムで稼いでいたため1.0だった家計所得が、もう片方がパートタイムで働きに出るようになったことで1.5になりました。この「1.5」というのがポイントです。
 

アメリカの共稼ぎ家庭では、妻も夫も同じ勤務時間と所得で2.0を目指すのが主流です。でも、オランダは1.5でいいと考えた。残りの0.5は家族と過ごす時間や自由に使える時間にしたいと思ったんです。

武田 ご著書の『オランダモデル』に、オランダは「夫が働き、妻は家事をする」という保守的な価値観が根強いとありましたね。そのため、保育所などの育児のための家庭外サービスがあまり充実していない、と。
 それもあって、女性は男性と同じようにフルタイムで働くよりも、パートタイムで安定して働ける新しい雇用制度の導入を求めたのでしょうか。
長坂 そうなのです。ワークライフ・バランスの達成へ向けて、その第1弾がこの均等待遇によるパートタイム労働の促進でした。2.0までいかなくとも世帯所得が1.5に増えれば、それだけ消費が増えて、経済がよくなっていく。パートタイムでの雇用が増えたので失業率も下がる。そうしてオランダは、経済成長率がヨーロッパの中で最も高い国になったのです。
 

しかも、夫が1.0、妻が0.5という働き方だけでなく、夫婦共に0.75ずつという働き方も普及してきています。 この「パートタイム革命」により、オランダの人々は働き方の自由を得ることになりました。オランダのパートタイムというのは、基本的に常勤雇用契約で、雇用や収入の不安定さはありません。日本で言うところの正規雇用者で、派遣や臨時雇用とは違います。

武田 日本のパートタイム労働者とはずいぶんイメージが違いますね。日本では、「パート」といえば短時間労働で非正規の人というイメージが強いと思います。

■高等教育を受けた人ほど パートタイム志向が強い
長坂 そうですよね。日本ではどうしても「正社員になれないから仕方なくパートで働いているんだろうな」、あるいは「アルバイト感覚の働き方」などと思われがちです。
 

でも法律的に差別がなくなると、パートタイム労働は自分自身の選択ということになる。「家族との時間をもっと過ごしたいから」「週3で働き、それ以外の時間は自分のやりたいことに使いたいから」など、主体的に時間の使い方を選べるようになります。
 

おもしろいのは、高等教育を受けた人ほどパートタイム志向が強いという現象が見られることです。  私の知っているオランダの博物館のキュレーターはほとんどがパートタイマーで、空いた時間は自分がやりたい展覧会を世界の博物館に提案することに充てたりして、自分のキャリアを拡げるために使っています。他にも、本業が警察署の高官の秘書で、休みの日には貿易商を営んでいるという女性も知っています。

武田 それはたしかに、日本の「パートタイマー」に対するイメージとはだいぶ違いますね。
長坂 日本の「働き方改革」は、このオランダの第1段階にさえ遠く達していません。オランダはその後、「ワークライフ・バランス」の完全版を目指して第2段階、第3段階へと展開してきています。 現在では、2016年に体系化され強化されましたが、働く時間の短縮や延長(働く時間の長短の変更)のみならず、勤務時間帯の変更や勤務場所の変更(在宅勤務等)の申請を保障する法的措置も強化されてきています。
 

オランダの制度は、こうしたパートタイムとフルタイムの移動などの労働時間問題だけでなく、全体的に見ると、女性の労働市場参入と女性支援、仕事能力の開発と燃え尽き症候群の防止、キャリアと育児の同時追求、男性の育児休暇、結婚・妊娠・出産・育児・ケアを可能にする家族中心志向を支援する制度の設計を作り上げているといえます。

■オランダが追求する思想と仕組みは ワークライフ・バランスの完全版
武田 そこまで幅広く設計しているんですね。


長坂 オランダが追求している思想と仕組みは、「ワークライフ・バランス」の完全版だと言っていいと思います。ライフステージに応じた多様な就労とケアの選択肢を提供することによって、それを達成しようとしています。
 

均等待遇によるパートタイムや働く時間の自由な変更や、働き方を支えるさまざまな制度の存在により、人間は自由な人生を生きられるようになるのです。


武田 自由な人生、ですか。

長坂 ただし、この「自由」という言葉にも注意が必要です。オランダ人にとっての自由と私たち日本人が考える自由とでは、意味合いが大きく違うのです。  ≫(ダイアモンドONLINE)

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