ニッポンの大問題 高齢期を「どう生きる」 今年は推計で百三十四万人が亡くなりました。超高齢社会の日本は「多死社会」を迎えます。人生の最終段階にどんな医療を受けたいでしょうか。
ニッポンの大問題 高齢期を「どう生きる」
東京新聞2017年12月30日
今年は推計で百三十四万人が亡くなりました。超高齢社会の日本は「多死社会」を迎えます。人生の最終段階にどんな医療を受けたいでしょうか。死を考えるとは、どう生きるかを考えること。そう感じる赤裸々な告白でした。十一月のある日の日経新聞に「感謝の会開催のご案内」という広告が載りました。その主は建設機械メーカー・コマツの元社長、安崎暁さん(80)です。
◆人生最終段階の医療
胆のうがんが見つかり体中に転移していることを告げました。そして、残された時間はクオリティー・オブ・ライフ(QOL・生活の質)を優先したいと、つらい副作用がある放射線や抗がん剤治療は控えることを宣言しました。治療による延命より、自分が望む生活を優先する。そんな「終活宣言」に聞こえます。
十二月の「感謝の会」は友人・知人ら約千人が集まり、病の痛みをこらえながら車いすで会場を回り親交を温めました。出身の徳島の阿波おどりも披露されました。参加した男性(69)は「自分で決める本人も、それを許す奥さんもすごい」と語りました。
安崎さんは会の終了後、メディアにも思いを語ってくれました。
「十分、人生を楽しんできました。人間の寿命は有限、だから現役の間は一生懸命働いて、棺おけに入るときは自分の人生よかったなあと、そう思って入りたい。若いころからひとつの死生観がありました」
仕事を引退後、「余生三等分主義」を実践してきました。残ったエネルギーを三等分して、社会、家族、自分のために使う。これが安崎流のQOLです。ただ、今回の決断を「一般の方にお勧めできるわけではない」とも。周囲の環境や考え方も多様だからです。
かつて、経営トップとして厳しい判断をしてきたことでしょう。この決断も強い意志を感じます。それでも唯一、その心が揺らいだ瞬間があります。決断に賛同しているという妻のことを聞かれた時です。「家内は、まだがんばれば生きられるんじゃないかと…」。食事療法に取り組んでいることを説明し「一生懸命やってくれています」と話した後、しばらく言葉になりませんでした。
強い意志を持つ人でも家族を思うと迷いはあったのではないか。どんな医療を選ぶかは、当事者には明快な解のない重い問題です。死をどう迎えるかは聖域にされています。「個人の自由、周囲が口出しすべきではない」との考え方は尊重されるべきです。
◆本人の思い共有する
しかし、医療技術の進歩は別の問題を突きつけています。食べられなくなっても、意識がなくなっても生きられる時代です。選んだ医療がほんとうによかったのか、直面した人たちは悩みます。
本人はどんな医療を受けたいか、家族はどんな医療を受けさせたいか。それを決めるには、どんな生活を送りたいかを考える必要がでてきます。つまり、終末期の医療を考えれば、それは「どう生きたいか」を問われます。
では、どう決めればいいのでしょうか。「自己決定」が基本ですが、認知症など自身で判断できない場合は戸惑います。本人、家族、医療・介護従事者が話し合うことがひとつの解になりえます。早い段階から本人の希望、家族の思い、提供できる医療サポートなどを「共同決定」する考え方です。
アドバンス・ケア・プランニング(ACP)と呼ばれます。いわば「最期までの予定表」。もちろん気持ちは変わります。予定表は書き換えることができます。その都度、思いを共有する取り組みです。
書面を作って終わりではなく、本人の意思を絶えず共有すること、それができたら本人が満足し、家族が納得する医療が実現できるのではないでしょうか。厚生労働省の意識調査では、こうした考えを事前に書面にすることについて70%が賛成しているのに、実際に作成している人は3%にすぎません。本人の意思を知る重要性は理解しつつも、死へのタブー視が阻んでいるようです。病にむしばまれた安崎さんは「余生三等分主義」を貫くことは難しくなっています。
◆死は生とともにある
ただ、ひとつ言えることがあります。死に行く人や家族のケアを考える死生学は英語でサナトロジー、直訳では「死亡学」になります。これを日本人は「死生学」と訳しました。死はいつも生と対にあるもの、どう死ぬかはどう生きるかと同義ではないでしょうか。
安崎さんは「今後、QOLに何を求めるのか、まだ結論がでていません」と吐露しました。自身の死生観とともに生きることを模索しているに違いありません。
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