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最高裁が「公共放送」と思うNHKの闇の数々。建前を信ずる世界であるから仕方のないことかもしれないが、「公平中立」とか「不偏不党」というNHKの標語ほど空しいものはない。-(田中良紹氏)

最高裁が「公共放送」と思うNHKの闇の数々

(田中良紹氏)6th Dec 2017

テレビがあればNHKに受信料を支払う義務があるという判決を最高裁が下した。放送法ではテレビを設置した場合、NHKと受信契約を結ばなければならないと定めているが、NHKと争った男性は「受信契約が強制されるのは契約の自由に対する侵害で違憲だ」と訴えていた。

これに対しNHKは「公共放送の意義を踏まえればその必要性や合理性がある」として合憲を主張した。

今日の最高裁判決はNHKの主張を認めて「合憲」としたが、問題はその前提となる「公共放送の意義」である。この際NHKは公共放送なのか、また公共放送とは何かを国民は考える必要がある。

かつてNHKは民営化を追求していた。1980年代、中曽根内閣が「土光臨調」の主導により国鉄や電電公社の民営化に力を入れていた頃、NHKもまた民営化の構想を練っていた。中心人物は「宏池会」を担当した政治記者出身の島桂次氏である。

彼は報道局長に就任すると米国のテレビを真似たキャスター・ニュース「NC9」や大型ドキュメンタリー「NHK特集」などを次々に制作、それまでのNHKの「お堅いイメージ」を変えた。

80年代半ばに副会長になると中曽根内閣が日米経済摩擦の解消策として米国が不要としたBS(放送衛星)を購入したのに歩調を合わせ、NHKを世界最大の放送局にする野望を抱く。将来の民営化を前提に彼はそれまでNHKが持つことを認められなかった民間子会社を設立していく。

1989年に会長に就任すると教育テレビやラジオ第2放送を打ち切り、
「商業放送局」への道を進もうとした。その方針は労働組合からも支持されていた。一方で高度経済成長を成し遂げた日本が1985年に世界一の債権国になり、米国が世界一の債務国に転落すると、中曽根総理とそのブレーンでありかつての大本営作戦参謀瀬島龍三氏にも別の野望が生まれた。

戦前の国策会社同盟通信を復活させることである。同盟通信は外国情報を収集し新聞社だけでなく経済界や国家に提供するための組織で、
戦後はGHQによって共同通信、時事通信、電通に三分割された。

中曽根総理や瀬島氏はテレビ時代における同盟通信の役割をNHKに負わせようと考えたのである。NHKは離島などへの「難視聴対策」という名目でBSを打ち上げた。しかし「難視聴対策」というのは真っ赤な嘘である。

「難視聴対策」なら地上波と同じ放送を流さなければならないが、BSには地上波と異なる番組が流れた。つまりNHKはBS放送を口実にチャンネル数を増やし肥大化したのである。そのため局内の人間だけでは足りず外部の制作会社に番組を発注する。

民放の番組を制作してきたプロダクションがNHKの下請けをやるようになりNHKと民放との差がなくなった。またNHKとソニーと郵政省(当時)はNHK放送技術研究所が開発したハイビジョンを一体となって世界に売り込み、世界のテレビを日本が支配しようと考えた。

そのためにはBSアナログによる放送が必要だったが、米国はデジタル技術を使ったCS(通信衛星)の多チャンネル放送で対抗し、結果は米国の勝利に終わった。

BS放送をやっているのは世界でも日本ぐらいではないか。 「美しい画面でつまらない番組を見るより、美しくなくとも多彩な情報を見る方が楽しい」というのが米国の言い分で、デジタル化に後れを取ったソニーは世界に冠たる放送機器メーカーの地位を失うことになる。

島桂次氏のNHK民営化路線はスキャンダルが表沙汰になり消えていくが、民営化の前提としてNHKが所有した民間子会社や中曽根―瀬島ラインによる「NHK同盟通信構想」はそのまま残り、それが後に一大スキャンダルを引き起こす。

以前から何度も書いてきたが、NHKと英国のBBCは公共放送という点で同じだ言われるが、フーテンに言わせればまるで違う。BBCは政権批判を行うが、NHKは一度も政権批判を行ったことがない。イラク戦争に加担したブレア首相をBBCは退陣に追い込んだが、NHKが小泉総理を批判したことはない。

違いの第一はBBCは王室から免許され、政府や政党の支配を受けないことだ。また5年に一度は継続させるかどうかを国民が判断する。ところがNHKは政府が免許し、予算は国会で審議される。国会で承認されなければNHKは何の活動もできない。つまり国会はNHKの「株主総会」に当たり「大株主」は与党である。

そのため国会の委員会の与党メンバーや与党実力者をNHK職員がお世話することになる。国内はもちろん海外に出張するときも必ず随行して接待など面倒を見る。フーテンはその現場を見たことがある。

瞬間「受信料はこういうことにも使われているんだ」と思った。政府や政党の影響下にあるNHKを「公共放送」と呼ぶことにフーテンは強い抵抗を覚える。またNHK予算は国会でチェックされるが、民間子会社の会計は民間であるからチェックされない。

確か38社だと思ったが民間子会社を行ったり来たりさせれば金の流れは不透明になる。それがスキャンダルにつながった。2004年に紅白歌合戦のプロデューサーが制作費をごまかした問題を週刊文春が報じたが、それは国民の目をそらすための仕掛けだったとフーテンは思っている。

それより重要だったのは同じ時期に韓国特派員が韓国の要人を取材するため支局に多額の資金を蓄えていたことが発覚したのである。それを隠すため紅白プロデューサーに目が向くよう仕掛けられた。韓国特派員の話はいつの間にか消え、何のお咎めも受けなかった。

咎められないところを見ると韓国だけでなく世界中のNHK支局に同じ問題があり、それへの連鎖を恐れたのではないかとフーテンは思った。

NHKを同盟通信にする構想は消えていない。フーテンは同盟通信のような存在を否定するものではない。世界から情報を収集することは極めて重要な国家の仕事である。ただしそれが公共放送を理由にした国民の受信料を原資にしているとなれば話は違う。

国民から徴収された受信料は番組に使われ国民に還元されるのでなければ大問題だ。日本の司法界はおそらく「NHKの闇」を御存じないのだろう。

建前を信ずる世界であるから仕方のないことかもしれないが、「公平中立」とか「不偏不党」というNHKの標語ほど空しいものはない。養老孟司氏はベストセラーになった『バカの壁』(新潮新書)でこれらの標語ほど「バカ」の典型はないと書いていたが、NHKだから「公共放送」というのも「バカ」の典型である。

民放の番組にも「公共的価値」を有するものはいくらでもある。嘘と建前だらけで「公共放送」を存続させるより、現在の通信技術では料金を支払っていない者のテレビに画像を映らなくすることは可能なのだから、強制的に受信料を徴収するより支払わない人には映らなくするというのが最も賢明な方法だと思うが、おそらく政府と自民党が嫌がるということなのだろう。それだけの話だ。

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