COP23閉幕 石炭火力推進の日本に奇異の目
COP23閉幕 石炭火力推進の日本に奇異の目
日本経済新聞 2017/11/18
18日閉幕した第23回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP23)の交渉で日本は存在感を示せず、「石炭火力発電の推進国」という点ばかりが注目された。温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」離脱を決めた米国と並び、温暖化ガス削減を妨げる勢力ともみられ始めている。産業界には世界の潮流に取り残されれば国際競争上、不利になるとの懸念もある。
COP23の会場前では連日、石炭火力への抗議行動があった「仮設会場が壊れそうだ」。英政府担当者は脱石炭火力の国家連合結成を発表した16日、詰めかけた支持者や報道関係者の多さに悲鳴をあげた。
この国家連合にはカナダやフランス、イタリアのほか米ワシントン州、オレゴン州など26カ国・地域が参加するが、リストに日本の名前はない。
英国のペリー気候変動産業相らは「日本にも門戸は開かれている」としながらも、「石炭火力は温暖化ガス排出ゼロでなければ認められるべきではない」と指摘。日本が推進する最新の高効率石炭火力も不十分との認識を示した。
「石炭火力発電所を国内に建設するだけでなく輸出もしているのは好ましくない」。企業のCOP23視察団に参加した伊久哲夫・積水ハウス副社長はフィゲレス国連気候変動枠組み条約前事務局長との懇談でこう切り出され驚いた。「想像以上に石炭火力が問題視されていると実感した」
環境問題に詳しい名古屋大学の高村ゆかり教授は「明らかに(脱石炭へ向け)潮目が変わった」とみる。理由の一つは昨年のパリ協定の発効だ。地球の気温上昇を産業革命前に比べ2度未満に抑える目標は現状の削減計画では難しい。温暖化ガスを大きく減らすには脱石炭火力は避けられないとの見方が強まった。
石炭火力の経済的な優位性も崩れつつある。米投資銀行ラザードのまとめでは1キロワット時あたり発電コストは2013年を境に太陽光が石炭を下回り、差は開く一方だ。さらに、石炭火力は大気汚染による健康被害の原因としても敬遠される。
太陽光や風力発電の効率やコストは気象や地形の特性に左右される。補助金も考慮する必要がある。それでもコストの急低下傾向は明白で、石炭にこだわる日本には奇異の目が向けられた。
英シンクタンク、インフルエンスマップのディラン・タナー共同創業者は「優れた環境技術をもつクリーンな国という日本のイメージは変わってきた」と話す。
COP23に合わせ、日本のエネルギー政策の形成過程を分析した報告書を公表。経団連とかかわりが深い経済産業省の審議会で政策が議論され、エネルギー産業や重工業の主張が通りやすいことが石炭火力推進につながっていると指摘した。
COP23で日本と並び環境系非政府組織(NGO)などの標的になったのが米国だ。高効率の化石燃料利用を後押しする政府のイベントは、トランプ大統領の有力な支持母体である炭鉱労働者の支援が狙いだとして開催を妨害された。
もっとも、米国は一枚岩ではない。カリフォルニア州など9州をはじめ2500以上の米自治体・企業が「(パリ協定に)私たちはとどまる」という組織を発足し、大型の展示や講演会でアピールした。参加する自治体の総生産は計6兆2千億ドル(約700兆円)で日本を上回り世界で3番目に相当する。
こうしたなか、日本は米政府との連携を重視する方針を貫く。中川雅治環境相はCOP23でパリ協定に戻るよう「翻意を促す」つもりだったが、果たせなかった。局長級の米政府担当者との会談では温暖化対策と雇用・経済の両立で一致した。
「日本もパリ協定を離脱するのか」。記者は、中国メディアに真顔で聞かれた。温暖化対策での日米政府の蜜月ぶりは「石炭火力推進で足並みをそろえたとも受けとられかねない」と高村教授は心配する。排出量のデータ管理や人材育成など、地道な途上国支援も石炭問題の陰に隠れて評価されなくなってしまう。
日本が投資先や事業の相手としても敬遠されれば、経済的な不利益にもつながりかねない。温暖化対策の進め方が国により異なるのは当然だが、世界の大きな方向性を見誤ってはならない。(ボン=編集委員 安藤淳、川合智之)
Comments