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敬老の日に考える 聴かせてよ、宝の言葉。語り継ぐ-。若い世代のそんな決意をよく耳にした夏でした。“戦争を知る大人たち”。その記憶こそ迷走の時代の宝物。今夜もゆっくり聴かせてほしい。

敬老の日に考える 聴かせてよ、宝の言葉

東京新聞2017年9月18日

 
語り継ぐ-。若い世代のそんな決意をよく耳にした夏でした。“戦争を知る大人たち”。その記憶こそ迷走の時代の宝物。今夜もゆっくり聴かせてほしい。
 
七十二回目の八月の後ろ姿を見送りながら、日本原水爆被害者団体協議会(被団協)代表委員を長く務めた谷口稜曄(すみてる)さんは、八十八年の生涯を閉じました。
訃報に触れて、頭の中を駆け抜けたのは、後悔でした。お目にかかっておけばよかった。お話をじかに、うかがっておくべきだった-。今なお、歯がゆい思いがします。

◆全身全霊で被爆を語る
「ヒロシマナガサキ」というドキュメンタリー映画を初めて見たときの衝撃は、今も忘れられません。二〇〇七年八月五日、広島。原爆忌の前日でした。
 
監督は日系米国人のスティーブン・オカザキさん。監督自らによる広島、長崎の被爆者十四人、そして原爆投下に関与した米国側の関係者四人のインタビューを中心に構成されています。映画の後半、谷口さんはにわかにシャツを脱ぎ捨てて、カメラの前に上半身をさらします。
 
胸の大きな床擦れの痕跡は、うつぶせのまま寝たきりを強いられた、一年九カ月のなごりです。薄紙のようになってしまった皮膚を破って現れそうなあばら骨。「心臓の動くのが見えるようになっています-」
 
谷口さんは、淡々と話し続けます。そしてくるりと向けた背中には、一九四五年八月九日のナガサキが、そっくりそのまま刻み込まれているようでした。画面は一転、記録映像に切り替わり、スクリーン全体が、突然真っ赤に染まってしまったように見えました。
 「米陸軍が撮影した谷口稜曄の治療の様子」というテロップが重なります。

◆“一人称”の言葉の力
十六歳。長崎の爆心地から一・八キロ。自転車で郵便配達中、猛烈な爆風に吹き飛ばされ、無残に焼けただれたあの背中、世界を震撼(しんかん)させた“赤い背中”が、画面いっぱいに映し出されていたのです。
 
それまで見たこともない、壮絶な赤でした。目を背けるな、と自分に強く言い聞かせ、痛いほど奥歯をかみしめました。ホテルに戻ってお風呂の鏡に自分の背中を映し、ほっとため息をつきました。

「背中が語る」と言いますが、あの“赤い背中”を直視して、痛みを覚えた人ならば、核兵器を持とうとか、戦争をしようとか、考えるはずがありません。不謹慎と思われるかもしれないけれど、谷口さんの話を聴きながら、背中を見せてもらいたかった。できるなら、そっと触れてみて、感じた何かを伝えたかった。
 
七十二年もの間、一身に背負い続けた重過ぎる歴史と人生に、触れてみたいと今も思っています。被爆や戦争の記憶の継承に加速がかかっていることを、とりわけ強く感じたことしの八月でした。
 
それはもちろん、大切なことですが、例えば、毎年八月九日、長崎平和祈念式典の開会を告げて歌われる、被爆者歌う会「ひまわり」の平和を願う合唱が、ひときわ心に染みいってくるのは、なぜでしょう。
 
♪もう二度と作らないで/わたしたち被爆者を/この広い世界の/人々の中に…(「もう二度と」)。
 
世界中で広島と長崎の被爆者だけしか持ち得ない、持ってはならない、「わたしたち」という“一人称”の体験の重みがあるからです。おととしのその式典で、谷口さんは「平和への誓い」を読み上げました。二度目です。
 
「戦後日本は再び戦争はしない、武器は持たないと、世界に公約した憲法が制定されました。しかし、今集団的自衛権の行使容認を押しつけ、憲法改正を推し進め、戦時中の時代に逆戻りしようとしています-」 谷口さんや被爆者の皆さんは、次の世代の未来を憂い、語り続けてきたのです。

◆被爆も戦争ももう二度と
被爆だけではありません。今のこの先の見えない時代には、戦争を知る人たちの経験知こそ、何よりの宝物ではないのでしょうか。
 
命に対する現実感にも想像力にも欠けた一部の為政者が、この国を再び“戦争のできる国”に塗り替えようとしています。だから、おじいさん、おばあさん、いつまでもお元気で、原爆のこと、戦争のこと、戦争の時代のことや、その時代の暮らしのこと…、“一人称”で語り続けていただきたい。
 
「わたしたち」が背中を真っ赤に染める日が、もう二度と、来ぬように。

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