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僕が安倍首相に提案した外交戦略の全貌(田原 総一朗)

僕が安倍首相に提案した外交戦略の全貌(田原 総一朗)

日経ビジネス 田原 総一朗 2017年9月15日

僕は7月に首相官邸を訪問し、安倍首相と1時間20分に渡って会談した。その場で、「政治生命を賭けた冒険をしないか」と、ある戦略を提案した。口外しないと約束し、僕はこれまで沈黙を守ってきたが、今回はその全てをお伝えしようと思う。

核実験を強行した北朝鮮に対し、国連の安全保障理事会は9月11日、新たな制裁決議を全会一致で採択した。当初は、米中露の思惑が異なることから可決は難しいのではないかと懸念されていたが、結局、米国が妥協に次ぐ妥協を重ねたことで成立に至った。

米国は、恥をかくのを恐れたのだろう。もし、ここで中国とロシアが反対して制裁決議案が成立しなかったら、米国の敗北だ。トランプ大統領のメンツが丸潰れになる。 

最大の焦点は、北朝鮮への原油・石油製品の全面禁輸が盛り込まれるかどうかだった。原油の多くを供給しているのは中国だ。米国は当初、それを全て禁止するという厳しい決議案を出していた。 

最終的に可決されたのは、その原案よりも緩い内容だった。原油と石油製品の輸出は、過去1年間の実績を上限に設定された。つまり、現状維持である。 

北朝鮮労働者の国外での雇用についても、新規に限り禁止になった。既存の労働者は容認されるということであり、こちらも現状維持だ。結局、総じて現状維持の内容だったから、中国とロシアも賛成した。 

問題は、米国と中国、ロシアの北朝鮮に対する思惑が根本的に違うことにある。この思惑の違いを一致させるには、どうすればいいのか。 

米国が北朝鮮に求めているのは、核兵器開発の全面放棄だ。一方、中国とロシアは、せいぜい現状凍結だろう。第一、北朝鮮の核兵器の技術は、ロシアから相当流れていると言われている。

2002年に小泉純一郎首相が訪朝し、それをきっかけに2003年から米国、中国、ロシア、韓国、日本、そして北朝鮮の6カ国協議が開かれるようになった。これは、北朝鮮が核開発しないことを前提としていた。 

ところが北朝鮮は、その裏で核開発を継続していた。ロシアは当時、北朝鮮の核開発に協力していたとみられる。中国はその事実を知りながら、黙認していたのだろう。その結果、2006年に北朝鮮は核実験を実施する。「核開発をしない」という前提の6カ国協議を継続しながら、秘密裏に核開発を進めていたことが裏付けられた。 

2009年には、2度目の核実験を行った。要するに、北朝鮮は5カ国を騙した形になるが、ロシアはむしろ核開発の協力をし、中国はそれを認めていたのだから、結局のところ騙されたのは米国と韓国、日本だったわけだ。特に米国は大変腹を立て、北朝鮮に対する強い不信感を抱いた。

「政治生命を賭けた冒険」の中身

僕が安倍首相に提案したのは、外交についてである。 

北朝鮮と米国の緊張が、非常に高まっている。最悪の事態を回避するために、日本政府がやるべきことは何か、という話だ。当時、僕が話した内容が一体何なのか話題になった。実は「政治生命を賭けた冒険」とは次のようなことだ。 

まず、安倍首相は米国に行ってトランプ大統領と会い、一体どういう条件ならば北朝鮮と話し合いをするつもりなのか、とことん聞き出す。これは最終結論じゃなくていい。北朝鮮と話し合いをする条件が何なのかを聞き出すのだ。 

ここを把握した上で中国に行き、習近平国家主席に会って「米国はこの条件なら北朝鮮と話し合いをすると言っているが、どうだろうか」と話を持ちかける。おそらく、中国は了承するだろう。 

次に、ロシアのプーチン大統領に会い、このことを話す。プーチン大統領も、米国が了承するなら承諾するだろう。 

韓国の文在寅大統領にも会って話をする。こうして各国の意向が一致した時点で安倍首相は北朝鮮を訪れ、金正恩と会い、「米国をはじめとする5カ国はこの条件であれば話し合いのテーブルに着くと言っているが、どうだろうか」と話を持ちかける。

安倍首相はこの提案を実現に移そうとした

金正恩の頭の中には、米国との対話しかない。だから、米国が「この条件であれば対話する」と言うのであれば、おそらく北朝鮮は承諾するだろうと思う。僕はあの日、安倍首相にこのような話をした。 

安倍首相は、この話に乗った。その直後の8月3日に内閣改造が実施され、河野太郎氏を外相に起用した。僕は、その日に河野氏に会い、1時間以上かけてこの話をした。すると河野氏は、僕の提案に大いに乗り気になり、すぐに行動に出た。 

日本時間8月17日、日本と米国の外務・防衛閣僚協議「2プラス2」が開かれた。河野外相と小野寺五典防衛相は、ティラーソン国務長官とマティス国防長官と会い、個別会議で先に述べた話を懸命に伝えたという。 

ところが、ティラーソン氏はその提案を拒否した。だからトランプ大統領はその後、ツイッターで「対話は解決策ではない」と言ったのだろう。 

河野氏は帰国後、僕に「残念ながら、うまくいかなかった」と報告してくれた。しかし、河野氏と安倍首相は「もう一度、チャレンジする」と述べ、9月下旬の第72回国連総会の前にトランプ大統領と会い、安倍・河野でもう一度話をすると意欲を示した。 

今回、国連安全保障理事会が全会一致で北朝鮮への追加制裁決議案が採択された。問題は、米国はあくまでも北朝鮮の核兵器放棄を前提とする態度だ。ところが、北朝鮮は核放棄を絶対にしないだろう。イラクと同じ結末になってしまうと分かっているからだ。 

どういうことか。イラク戦争が始まる2カ月前、僕はフセイン大統領にインタビューするためにイラクの首都バグダッドを訪問した。

現実味を帯びてきた「最悪のシナリオ」

ところが、フセイン氏側は「田原さんの行動はCIAが全部キャッチしていて、フセイン氏と会った瞬間に爆撃されるから、残念ながら会わせることができない」と述べ、代わりにラマダン副大統領とアジズ副首相に会うことになった。 

そこでラマダン副大統領が次のような話をした。「米国は、我々が大量破壊兵器(核兵器)を持っているとか、アルカイダと深い関係があると主張して攻撃しようとしているが、恐らく本当に攻めてくるだろう。なぜならば、米国は我々が大量破壊兵器を持っていないことを分かっている。もし、我々が本当に大量破壊兵器を持っていたら、米国は攻撃することはない」 

核兵器こそ攻撃の抑止力となるということを、北朝鮮はよく理解している。だから、北朝鮮は核兵器を放棄することはない。おそらく、中国とロシアも、北朝鮮が核兵器を持つことを承認して、核廃棄を強く求めないだろう。 

米国、中国、ロシアの思惑が根本的に異なっている。ここをどうすればいいのか。日本は、そのあたりの方針がいまいち曖昧だ。表側では「核放棄」を主張しているが、方向性は明確に定まっていない。 

これから世界はどうなるのか。思惑が一致しなければ、米国は武力行使する可能性がある。すると、北朝鮮は、米国本土を攻める能力はないから、韓国や日本の米軍基地に攻撃をする恐れがある。特に韓国は大きな被害を受けるだろう。その最悪のシナリオが、現実味を帯びてきたように思う。 

では、回避するためにはどうすればいいのか。僕は6カ国協議しかないと思う。もちろん、そこまで漕ぎ着けたとしても、米中露の間で話がまとまらない可能性もある。ただし、北朝鮮は米国との話し合いのテーブルに着くことさえできれば、これ以上、ミサイルの発射や核実験をやることはないだろう。 

実現は難しいだろうが、対話に持っていくことができなければ、米国が武力行使をする可能性が高まる。これだけは絶対に避けなければならない。

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