社説を読み解く加計学園の学部新設問題「総理のご意向」究明で割れる 毎日・解明拒む姿勢批判/読売・規制改革を評価/産経・「不毛な泥仕合」 =論説委員・海保真人
社説を読み解く加計学園の学部新設問題=論説委員・海保真人
毎日新聞2017年7月5日
「総理のご意向」究明で割れる 毎日・解明拒む姿勢批判/読売・規制改革を評価/産経・「不毛な泥仕合」
自民党が東京都議選で歴史的惨敗を喫した。この要因の一つとされるのが学校法人「加計(かけ)学園」(岡山市)の獣医学部新設をめぐる問題である。
政府の国家戦略特区制度を活用し、愛媛県今治市に学部を新設する計画について、「総理のご意向」などと記された文書が、文部科学省内で見つかったのが発端だ。学園の理事長は安倍晋三首相の友人で、首相の意向が実際に働いたのかどうかが焦点となった。
首相は計画への関与を否定している。だが、野党は引き続き真相解明を求めている。
この問題に関する各紙社説の論調は大きく割れた。
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文書は5月17日、衆院文科委員会で取り上げられた。内閣府からの伝達事項として、学部の早期設置に関し「官邸の最高レベルが言っている」「総理のご意向だと聞いている」などと記されていた。
当時、松野博一文科相は文書を確認しておらず、菅義偉官房長官は「怪文書」と評した。
毎日新聞と朝日新聞は一貫して事実関係の解明を求めてきた。
毎日は18日、政府が文書の存在を確認すべきだとし、「内閣府と官邸、および文科省の3者でどのようなやりとりがあったのかが、問題の核心だ」と指摘した。
朝日は「事実関係をすみやかに調べ、国民に説明する責任が首相と関係省庁にはある」と記した。
日経新聞も「文科省や内閣府は折衝の有無や発言内容を早急に確認すべきである」とした。
その後、松野文科相は文書の存在を確認できなかったとの調査結果を発表し、いったんは幕引きを図ろうとした。だが、文科省の前川喜平前事務次官の証言が流れを変えた。
前川氏は25日、記者会見し文書が「確実に存在していた」と述べ、加計学園を前提に事業者選定が進められていたと主張した。また、国家戦略特区の規制緩和に関し「行政のあり方がゆがめられた」と語った。
ここで毎日は「問題の局面は変わった」とし、「文書の存在がはっきりした以上、実際に『総理の意向』があったのか、内閣府側の『そんたく』だったのかが焦点になる」と指摘した。
ところが、読売新聞の社説は異なった。文書の有無にはこだわらず、特区指定や規制改革の意義を強調する立場を取った。
政府に対し「特区を指定した経緯や意義について、より丁寧かつ踏み込んだ説明をすべきだろう」と求めた。また、前川氏が「行政がゆがめられた」と発言したことに、「事実なら、なぜ現役時代に声を上げなかったのか」と意思表示の時期に疑問を投げかけた。
産経新聞は、野党側が前川氏の国会招致を求め、政府側が前川氏を個人攻撃している点を取り上げ、「不毛な泥仕合」と評した。
文書が存在したとしても「具体的指示があったかの証明とはならず、法律上の容疑が生じるわけでもない」とした。また、「忖度(そんたく)の有無が焦点となれば、これはもう水掛け論である」と議論自体に否定的な立場を取った。
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首相の国会答弁(6月5日)に関しても論調は分かれた。
毎日は「首相は『問題の本質は岩盤規制にどう穴をあけるかだ』と主張するばかりで、質問されたことに直接答えず、議論をすり替える」と批判した。
朝日は「驚き、あきれ、不信がいっそう募る」と首相らの答弁を非難した。
これに対し読売は、首相が関与を「改めて明確に否定した」と強調した。その上で、獣医学部新設を認めた理由や経緯の詳細を、政府により分かりやすく積極的に説明するよう改めて求めた。
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6月15日、文科省が再調査の結果、内部文書の存在を認めたことが新たな転機となった。
毎日は「文書が確認された事実は重い。官邸の関与の有無について、国会は解明に取り組む必要がある」と説いた。また、16日の参院予算委の集中審議の結果でも「首相の意向を周辺がそんたくし、行政がゆがめられたのではないかという疑問の核心は解消されなかった」とした。
読売はこの局面でも「疑念の払拭(ふっしょく)には、規制改革の経緯や意義をより丁寧に説明する必要がある」と繰り返した。さらに、内閣府の立場について「首相の影響力を利用しなければ、他省庁を動かせない面もある」と擁護した。
読売の論説主幹はコラム(17日)で、首相の反論などを基に、「『総理の意向』はしょせん、伝聞の伝聞に過ぎない。それによって、行政のあり方はどうゆがめられたというのだろう」と記した。
その上で「規制緩和で新規参入を認めたい内閣府に対し、規制を維持したい文科省が、政府内の議論で敗れただけではないのか」と省庁間の勢力争いにすぎないとの見方を示した。
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私たちが加計問題を重視するのは、「安倍1強」下で「政と官」のバランスが崩れているのではないかと危惧するためだ。もし行政の公正さが疑われるとしたら、積極的に情報を開示するのが民主的な政府のとるべき道だろう。
文書は行政文書、すなわち公文書である。行政手続きが公正かつ民主的に進められたかを後々に検証するためにも、保存され公開されてしかるべきものだ。
加計問題では官邸が文科省に早期開学を迫ったとする新たな文書も見つかった。だが、菅官房長官らは行政文書でなく「個人のメモ」と扱い、事を収拾しようとしている。行政文書でなければ保存・公開の対象とはならない。公文書管理のあり方も問われている。
野党は真相解明が必要だとして臨時国会の召集を求めている。複数の文書が作成された経緯の詳細は、まだ分からない。安易な幕引きは許されるべきではない。
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<加計学園問題をめぐる各社社説の見出し>
※毎日と朝日は5月18日、日経は5月19日、読売と産経は5月27日
・毎日=事実関係の解明が必要だ
・朝日=疑問に正面から答えよ
・読売=「特区指定」の説明を丁寧に
・日経=獣医学部新設の経緯を示せ
・産経=不毛な泥仕合は見苦しい
« 政府の国家戦略特区WGが加計学園の獣医学部新設に関する議事要旨に関し冒頭部分の発言内容を書き換えていたことが七日明らかになりました。民進党会合で書き換えの疑いが指摘されWGの八田達夫座長が記者会見で事実を認めました。安倍首相はWGもすべて議事録を公開していると加計学園選定の透明性を強調してきましたが議事要旨そのものの信頼性が揺れる事態となりました。 | Main | 日本郵政、民営化失敗の可能性…深刻な業績不振、国の株売却計画が頓挫 »
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