« 首相への注文 憲法を守る政治に戻れ | Main | 大敗の自民 「安倍政治」への怒りだ »

風俗女性に絶対必要なセカンドキャリアと転職支援

風俗女性に絶対必要なセカンドキャリアと転職支援


毎日新聞 2017/7/5


2017年7月5日 藤田孝典 / NPO法人ほっとプラス代表理事


再び、女性の貧困(1)
 

厚生労働省が6月27日に公表した「2016年国民生活基礎調査」によると、日本の相対的貧困率(15年)は15.6%で、前回12年の16.1%から若干改善しました。また、子供の貧困率も前回の16.3%から13.9%に下がりました。一方、1人親世帯(その多くは母子世帯)の相対的貧困率は50.8%と依然高い水準です。改めて女性の貧困について考えます。 



私たちのNPO法人「ほっとプラス」に先日、埼玉県内の風俗店で働いている28歳独身女性が相談メールを送ってきました。

 

20代後半になったころからだんだん収入が下がり仕事がうまくいかないことがストレスになって睡眠薬や向精神薬を手放せなくなった夜も眠れずうつの症状もある収入も減ってきたので今の仕事を思い切って辞め昼の仕事に就きたいので相談に乗ってもらえないか             

風俗女性のセカンドキャリア形成支援は私たちの活動の中でも大切な仕事の一つです。なぜなら福祉の相談窓口が極めて狭いからです。

 

まず役所や相談機関の窓口には男性相談員が多く配置されています。アルコールやギャンブル依存の男性が相談に来ることが多いため男性職員を置くことが多いのです女性相談員もいますが恥ずかしさを感じるのか相談者が分かってもらえないだろうと思ってしまって、自分のことを話しにくくなることもあるようです。

 

そして、仮に相談しても、ハローワークの職業紹介で終わることが多く、役立つアドバイスを得にくいようです。このように福祉機関が当事者にとって遠い存在であるため、私たちがメールやソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)、インターネットで匿名相談を受けることが多いのです。


非正規の仕事からキャバクラ、風俗へ

 

女性は長野県出身で、地元の高校を卒業後、ウインナーソーセージなどを作る東京の食品加工会社で働き始めました。彼女の話では、上司のセクハラやパワハラがひどく、辞めざるを得なくなって、その後非正規雇用で他の仕事を転々としたそうです。


給料は安く、そのうちにキャバクラの仕事を始め、相談時は派遣風俗店で働いていました。
 

風俗業界では、残念ながら若いほど“商品価値”が高くなります。がんばってやってきたのに、10年近いキャリアがあるのに、20代後半になるとお客さんがつかなくなり、後輩に負けるようになって、薬物に頼り始めたといいます。

 

非正規雇用の増加や貧困の進行で、多くの女性が風俗業界に流れたと言われています。競争は激しくなり、容姿だけでなく、高度なコミュニケーション能力も問われるようになりました。


ところが彼女はあまり話上手ではなく、むしろ不器用で無口です。身なりもあまり構わず、上下ジャージーで事務所に現れました。こちらがいろいろ尋ねないと、自分からはあまりうまく話せない。その時点の収入は約10万円。完全に競争に負けつつありました。

 

実家は農家で、両親は細々と農業を続けながら年金暮らしをしています。田舎なので満足な仕事もなく、「故郷に帰る選択肢はない」と断言していました。風俗の仕事をしていて、満足な職歴を持たない女性の転職先は、やはり介護や福祉現場になりがちです。ヘルパーや介護福祉士の仕事を紹介しつつ、当面の暮らしを立てるために、福祉事務所で生活保護を申請するのに同行した。

役所の就労支援でヘルパー講座も受講し、薬物依存から抜け出す支援も受けました。今は介護施設や障害者施設で週3~4回働いています。生活保護をうまく使って生活を転換し今は一生懸命働いていますが、このまま続けられるかどうかはまだ分かりません


やむを得ず風俗で働いた後の「第二の人生」をどう作るか

 

一般的に、性産業の従事者は20代後半から30代にかけて、性を商品として売ることが難しくなります。お客さんがつかなくなり、収入が減って、ストレスなどから精神を病み、働けない状況に陥ります。

 

プロスポーツ選手と同じように、いずれ稼働できなくなる年齢が来ます。その次の職業訓練、資格取得の支援が必要とされています。風俗の仕事は接客業なので、保育士や福祉士、ヘルパー看護師の資格を取って、対人援助の仕事に転じる人が多いようです。


ただ、難しいのは転職活動です。風俗の仕事が長いと履歴書の空欄を埋めにくいからです。事情を知らせた上で職場を紹介できればいいのですが、それができない場合は、空欄を埋める次の作業が必要で、NPOにいったん職員として受け入れ、職歴に加えたり、ボランティア活動に参加させて、その経験を強調させたり、といった支援をします。

 

収入や貯蓄がなくなってから、あるいは子供を抱えるシングルマザーが相談してきた場合は、資格を取得する経済的時間的余裕はありませんから即座に生活保護など社会保障制度につなぎます。

 

カンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞した英映画「わたしは、ダニエル・ブレイク」(ケン・ローチ監督、2016年)に、政府の給付金を受け取れず困窮するケイティというシングルマザーが登場します。お金がなく、食べものも子供の靴も買えなくなったケイティは、やむを得ず、風俗の仕事に就きます生存をかけた重い選択と決断です。

私たちが、風俗に従事した人にその理由と過去を問うことはありません。それぞれの人に固有の事情があり、必要な決断があったと思うだけです。映画で描かれた英国と同じく、私たちもそのような時代を生きています。(つづく)

藤田孝典さん「貧困クライシス」好評発売中



 藤田孝典さんの連載「下流化ニッポンの処方箋」をまとめた「貧困クライシス 国民総『最底辺』社会」(藤田孝典著、毎日新聞出版、972円)が好評発売中です。ニッポンの貧困化、格差拡大の現状を細かな事例とデータで検証しています。全国の書店、アマゾンでお買い求めいただけます。



藤田孝典NPO法人ほっとプラス代表理事



1982年生まれ。NPO法人ほっとプラス代表理事、聖学院大学人間福祉学部客員准教授、反貧困ネットワーク埼玉代表。厚生労働省社会保障審議会特別部会委員。ソーシャルワーカーとして現場で生活困窮者支援をしながら、生活保護や貧困問題への対策を積極的に提言している。著書に「下流老人一億総老後崩壊の衝撃」「ひとりも殺させない」「貧困世代 社会の監獄に閉じ込められた若者たち」など。


.

|

« 首相への注文 憲法を守る政治に戻れ | Main | 大敗の自民 「安倍政治」への怒りだ »

Comments

Post a comment



(Not displayed with comment.)


Comments are moderated, and will not appear on this weblog until the author has approved them.



« 首相への注文 憲法を守る政治に戻れ | Main | 大敗の自民 「安倍政治」への怒りだ »