首相はTPP交渉が大筋合意したあと、美しい田園風景を守ると述べた。北海道の場合、基幹産業である農業への打撃は地域の地盤沈下に直結する。安倍晋三政権が掲げる「 地方創生 」に逆行するのは明らかだ。
TPPと道内 地域の地盤沈下 防がねば
(北海道新聞2015/10/7)
環太平洋連携協定 (TPP)交渉が大筋合意し、農産物のさらなる輸入自由化に道を開くことになった。いや応なく、これまで長きにわたって保護されてきた日本の農業がグローバル経済の荒波にさらされる。農業は「保護」から「競争」の時代に入り、構造改革を迫られている。
これを逆手にとって攻めに転じたいところだが、それも一朝一夕には進むまい。 とりわけ北海道の場合、基幹産業である農業への打撃は地域の地盤沈下に直結する。安倍晋三政権が掲げる「地方創生 」に逆行するのは明らかだ。
首相はきのうの記者会見で「美しい田園風景を守る」と述べた。しっかりとした対策を示すと国民に約束したといえよう。言葉通りにそれを果たすべきである。
影響調査急ぐべきだ
道はきのう、TPPの対策本部会議を開いたが、具体策には踏み込めなかった。
政府が交渉内容に関する情報を一切開示しない「秘密交渉」に徹したためだ。効果的な対策を打ち出すには、影響を見極めなければならない。
ところが、政府の説明は誠実とは言い難い。首相は会見で「類をみない関税撤廃の例外を数多く確保できた」「市場に流通するコメの総量は増やさない」と力説した。
確かに、重要5農産物の関税は税率が段階的に大きく引き下げられるものの、一部を除いて「撤廃」にはならなかった。しかし、例えば牛肉の場合、輸入制限措置であるセーフガードは将来、4年間発動されなければ廃止される仕組みになっている。
コメについても米国とオーストラリア向けに新たな無関税輸入枠を設定しており、流通量が増加するのは確実だ。TPPが、じわじわと影響を及ぼすのは間違いない。首相の発言は、現実を真正面から見据えたものとは到底思えない。
道は一昨年、TPPに参加すると、関連産業まで含めた農業への影響額が1兆5846億円になると試算した。ただ、これは関税が即時撤廃された場合の数値だ。再試算に高橋はるみ知事は消極的だが、道のみならず農業団体も合意内容をよく検証した上で、影響額を算出する必要があろう。政府もそのための基礎データをきちんと提供するなど、情報公開するのが筋だ。
効果の高い政策こそ
道内農業が衰退すればその影響は経済面にとどまらない。TPPの合意をきっかけに、離農が相次ぐと、少子高齢化が進む農村の人口減に拍車をかける。過疎化は消費を冷え込ませ、地域経済を直撃。果ては地域消失への悪循環に陥りかねない。
担い手が減れば、食と農で道産ブランドを売り込む道の戦略も崩れていくだろう。政府は農業への影響を最小限に抑えるため、対策を講じる考えだ。その場合、注意したいのはばらまきでなく効果の高い施策だ。
思い起こしたいのは、1993年にコメが部分開放された際の農業強化策である。国費を6兆円投入したが、温泉施設など直接農業と結びつかない事業に消えた例も多く、農業強化につながらなかった。同じ轍(てつ)を踏んではならない。
農家の不安を払拭(ふっしょく)するため、国は農業所得の向上策とその道筋を示すべきだ。農業人口の減少が続く現状を考えれば、新規就農を促す方策にも力点を置いてほしい。輸入農作物の増加をにらみ、食の安全をもっと重視したい。日本政府として輸入品に対し生産履歴を表示する「トレーサビリティー」の導入を働きかけてはどうか。
農家も体質の強化を
消費者の中には輸入品が出回ることで、価格が安くなることを期待する声もある。だが、北海道の農業産出額は約1兆円と国内最大だ。食品工業の出荷額はそれを上回る約2兆円と裾野は広い。
道内経済への波及効果も考えれば、道民の手で農業を支えるという視点も大切ではないか。協定は各国の手続きが進めば、早ければ来年にも発効する。たとえ、発効するにしても、発効しないにしても、農業の体質強化が必要である。
海外からの農産物攻勢に負けないようにするためには、消費者ニーズに応えるような創意工夫もほしい。世界的な日本食ブームもあり、日本の農産物輸出が拡大している。海外市場に打って出ることも視野に入れたい。
同時に、輸入農産物に対抗するため、安全・安心にこだわった作物づくりを推し進めるなど、地域に合った取り組みも欠かせない。
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