安保法案の強行採決や新閣僚のスキャンダルをひたすら国民の目から他にそらして記憶から消し去ることを考えている安倍政権は、国民と国会から逃げる事を考えて国会を開かずにいる:田中良紹 国会探検
国民と国会から逃げる逃げる安倍政権に光明はあるか
田中良紹 国会探検 2015/10/21
野党5党は憲法53条の規定に基づき臨時国会召集の要求書を衆参の議長に提出した。
憲法は臨時国会について「いずれかの院の議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない」としており、
野党の要求はその条件を満たしているが、召集を決めるのは内閣で、
今のところ安倍政権は召集に後ろ向きである。
表向きの理由は総理の外遊日程のためとされているが、仮に国会を開けば極めて乱暴な形で成立させた安保法の問題が取り上げられる他、
TPPの内容や新閣僚のスキャンダルを野党が追及するのは必至で、
全く得にならないと政府・与党は判断しているからである。
安倍総理はこれまで安保法が国民の理解を得られていない事を認め、
「丁寧に説明を尽くす」と繰り返し表明してきたが、実のところその気はさらさらなく、ひたすら国民の目を他にそらせて記憶から消し去ることを考えている。
外遊はそのために都合の良い政治日程でそれ以上の意味はない。
この姿勢は、安保法を国会で議論し国民に説明するより前に、米国議会で成立の時期を約束したのと同じで、安倍政権は国民や国会より他国に顔が向き、他国に喜ばれる事が国民に喜ばれる事よりも上位にある。
他国は日本の国益が犠牲となり自国の国益が得られれば喜ぶ。
従って他国から評価される政治家は国益を損ねている場合が多く、
自国の利益を優先する政治家は他国から批判される事が多い。
本物の政治家は、自国の利益のため他国から批判されても、その批判が自国の利益を損ねるまでには拡大させず、ギリギリのところでかわす術を心得ている。
ところで国会を開く事に野党が前向きで、政府・与党が後ろ向きというケースはフーテンの記者時代にはなかった。
議席数の多い政府・与党は法案を成立させるため、なるべく長く国会を開こうとし、数で劣る野党は国会を短くして法案を成立させないよう努めてきた。
そのため自民党は1年中国会を開く「通年国会」を主張し、野党は通常国会と臨時国会を別々に開いて、それぞれの期限内に法案が成立しなければ廃案になる現行の制度を支持した。
つまり国会を常に開きたい自民党と国会を期間限定にしたい野党が対峙していたのである。それがここにきて逆転している。フーテンは「通年国会」を支持してきた。なぜなら日本が議会のモデルとしたイギリスもアメリカも「通年国会」だからである。
戦前の大日本帝国議会のモデルであるイギリス議会はまさに会期1年の「通年国会」で、戦後の国会がモデルとしたアメリカ議会は2年が一つの会期となる。
日本のように1年の中で150日間の通常国会と秋の臨時国会の2本立てではない。 議会に提出された法案はイギリスなら1年、アメリカなら2年以内に成立させれば良い。
ところが日本では通常国会や臨時国会の会期中に成立しなければ廃案になる。そのため野党は会期中に成立させないよう物理的抵抗を行って廃案を目指す。それが「審議拒否」の戦術を生み出して国会の議論を不毛なものにした。
さすがに「審議拒否」は国民の支持を得られなくなり、政権交代を目指す野党はやらなくなったが、それに代わって国会の議論を不毛なものにしているのは、今では議席数に胡坐をかく政府の答弁戦術である。
野党の質問にまともに答えず長々と持論を展開する。それで時間を稼ぎ、一定の時間が来ればそれを理由に審議を打ち切り、採決を強行する。その戦術がこれでもかと言わんばかりに堂々と展開されたのが先の通常国会の安保法案を巡る審議であった。
「安保政策の歴史的大転換」と言われたので、フーテンはすべての審議を見たが、政府答弁の意味不明ぶりはまさに「筆舌に尽くしがたい」と形容するしかなかった。
これほど内容の貧しい議論は見た事がない。かつての野党の「審議拒否」もひどかったが、今回の政府の答弁戦術もそれに劣らずひどい。
それを政府・与党は意識して行った。だから時間を稼いで国民の記憶を消していく以外に方法はない事を知っている。
それが臨時国会を開きたくない本当の理由である。開けば同じ答弁戦術を使う事になり、国民の記憶を消す事とは真逆になる。
かつて野党の国会戦術を批判したフーテンは、国会をまともにするために「通年国会」を主張したが、今や政府・与党の国会戦術に対して「通年国会」を主張せざるを得なくなった。
国会を開いてまともな議論を行わない政治はいずれ国家を滅ぼす。
そして国会を開かない理由として総理の外遊を挙げるのもおかしい。
かつての野党は国会が開かれている期間は閣僚の外国訪問を認めない態度で政府の足を引っ張った。国会の方が外交より上だと主張したのである。
しかしこれは嫌がらせ以外の何物でもなく、国益を損ねる行為である。
そのため1998年の自自連立に際し、小沢一郎自由党代表は小渕恵三自民党総裁に政治改革を要求し、その中で副大臣制を採用して閣僚が外遊中の国会答弁は副大臣が行う事を提唱した。
それ以来、国会の会期中であっても閣僚は外遊を行うことが出来るようになった筈である。
確かに総理は一人しかいない存在で他の閣僚とは異なるが、しかし外遊があるからと言って国会を開かない理由になるのか、フーテンは合点がいかない。
総理には外遊を行ってもらい、それに支障にならない形で国会審議を行う事は可能だと思う。とにかく臨時国会を開かない事は、安倍政権が国民と国会に説明する事から逃げているだけの話で、民主主義と立憲主義の否定と言うしかない。
しかし逃げはますます自分を追いつめる事にもなる。
フーテンにはとてもその先に光明があるとは思えない。
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