北方領土の現実・北方領土、旧ソ連侵攻から70年 進む「ロシア化」高まる強硬論 空港、病院…風力発電も 「生活豊かに」「日本に権利ない」
北方領土の現実・北方領土、旧ソ連侵攻から70年 進む「ロシア化」高まる強硬論 空港、病院…風力発電も 「生活豊かに」「日本に権利ない」
(北海道新聞)
旧ソ連による占領から70年となった北方領土。長く停滞が続いたが、近年は開発が進み「ロシア化」が目立つ。実効支配が強化される中で、島民の間にもロシア政府に対する期待は高まっているが、経済の失速で不透明感も漂っている。
「島民の生活は非常に豊かになった。クリール(北方領土を含む千島列島)の開発に連邦政府は本気だ」北方領土・択捉島 最大のまち紗那(クリーリスク)の男性運転手(46)は興奮気味に語った。メドベージェフ首相が今月22日に初めて訪れ、択捉島はかつてない高揚感に満ちている。
ロシア政府が主導して2007年から15年まで北方領土を開発した「クリール諸島社会経済発展計画」の一環で、昨年には新空港が開業した。年内には温水プールや映画館、行政府などが入る大型施設(総床面積約1万平方メートル)が完成予定だ。計画の効果で、紗那の月平均賃金は約5万8千ルーブル(約10万4千円)と07年に比べ約2倍になったとされる。「なぜいまさら日本は南クリール(北方領土)を要求するのか」。男性運転手は日本への返還に全く期待していなかった。
島のロシア化を象徴する出来事が6月上旬、紗那であった。日本人が1930年に建設した「紗那郵便局局舎 」の解体だ。「当時の外観が残る最後の建築物」(日本人関係者)とされ、45年8月28日の旧ソ連軍による侵攻の緊急報を本土へ打電した場所でもある。今、跡地周辺はロシアの対日戦争勝利を記念する広場の整備が進む。
択捉、国後両島に比べて開発が遅れ気味だった 色丹島 でも昨年末、新病院が開院した。7月にはスクボルツォワ保健相がロシア閣僚として8年ぶりに同島を訪れ、島民は歓迎した。旧ソ連崩壊直後は日本への返還を容認する人は少なくなかったが、水産加工場勤務の女性(62)は「ロシアに日本が要求する権利は何もない」と言い切った。
北方領土の人口(一般住民が住まない歯舞群島を除く)は91年には約2万4600人(軍関係者を除く)に上ったが、94年の北海道東方沖地震で甚大な被害を受けて激減し、98年には約1万4500人に。だが、現在は約1万7千人にまで回復している。
こうした成果を受けて、ロシア政府は7月に承認した新たなクリール発展計画(16~25年)では、現計画の約2・7倍に当たる総額約700億ルーブル(約1260億円)を投じる方針だ。択捉島を訪問後、メドベージェフ氏はインターネット交流サイト 「 フェイスブック 」で「クリールには漁業や観光分野の発展のための資源が全てある。世界で最も急速に成長するアジア太平洋地域につながる玄関」と書き込み、開発を加速させる考えを強調した。
ただ、ロシア経済の低迷が開発に影を落とす。新クリール発展計画を承認した閣議で、開発の財源が18年以降はめどが立っていないことが明らかになり、メドベージェフ氏は関係閣僚に財源確保策を指示した。
また、北方領土を事実上管轄し、石油・ 天然ガス 開発で潤うサハリン州が、計画の総投資額の約半分を負担することになっているが、原油価格の下落傾向が続き、開発に影響する可能性がある。ロシア政府は中国や韓国など第三国からの投資を呼び込むことに躍起だが「新計画の10年間で目に見える発展を維持できるか」(日本外交筋)と冷ややかな見方もある。
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●日ロの専門家に聞く
北方領土問題 について、ロシア側はどう認識し、日本側はどのような姿勢で臨むべきか。両国の専門家に聞いた。
■政治的な決断すべき時 法政大教授・下斗米伸夫氏
今夏、プーチン大統領はウクライナから一方的に編入したクリミア半島を、メドベージェフ首相は北方領土の択捉島を訪れたが、領有に対する主張はそれぞれ異なる。クリミア はロシアにとって「同じ民族」「固有の領土」だが、北方領土は「大戦の結果」だと言う。北方領土は固有の領土と主張できないジレンマを抱えているのだ。日本はロシアの主張の矛盾を踏まえて、冷静な交渉が必要だ。
北方領土の領有問題は、常に国際情勢の影響を受けてきた。ウルップ島(得撫島)と四島の間に国境線を引いた1855年の日露通好条約は、当時の帝政ロシアがクリミア戦争で英仏トルコと激戦を繰り広げており、日本との国交樹立と開港を求めて締結された。米英ソが旧ソ連の対日参戦の見返りに千島列島の引き渡しを密約した1945年のヤルタ会談 も、ドイツ敗戦を目前にした3首脳の複雑な思惑の上に成り立ったものである。いずれもクリミアが絡んでおり、大変興味深い。
現在の情勢では、北方領土問題に大きな影響を与える可能性があるのは中ロの関係で、最近は両国の接近が目立つ。ただ、長期の友好になるかは疑問だ。ロシアが北極海沿岸のエネルギー資源を中国、東南アジアに運ぶ上での最短ルートは千島列島から日本海にかけての海域だが、中国が進出をうかがうようになればロシアの脅威になる。ロシアも日本との戦略的な外交を重視せざるをえない。
プーチン氏が2012年3月に「引き分け」という言い方をし、今年6月にも「解決できない問題はない」と発言したのは、決して政治的なポーズではない。
北方領土は1855年から90年間、日本が完全に法的根拠を持って実効支配した。戦後の旧ソ連・ロシアの支配は70年間に及び、これが90年間になったら、日本が固有の領土という主張を続けられるか。解決に向けて極東地域の安全保障、ロシア極東開発への日本の金銭的、技術的援助などをめぐる駆け引きが今後さらに活発に行われるだろうが、両国首脳が政治的な決断をすべき時が来ている。
■一時凍結し関係発展を モスクワ国際関係大アジア・アフリカ学科長 ドミトリー・ストレリツォフ氏
プーチン大統領の北方領土問題解決の土台には、平和条約締結後の歯舞、色丹2島の日本への引き渡しを明記した1956年の日ソ共同宣言 がある。
ロシアにとって北方領土問題は、第2次世界大戦の「結果」に対する日ロの意見の不一致の問題だ。ロシアが重視するのはヤルタ協定やポツダム宣言 など戦争の結果を形式化した法律や秩序であり、日本がこうした結果を完全に承認していないとみている。
56年宣言では不十分だという日本の立場は変わっておらず、ロシアも56年宣言から先には動けない。対立を生む領土問題は一時凍結して、今は両国の関係発展を考えた方が得策だ。プーチン氏は、対日外交に第三国が絡むことを警戒している。9月3日に中国・北京の抗日戦勝パレードに出席するが、日本に対してあまり刺激的な発言はしないだろう。安倍晋三首相の戦後70年談話にロシアが厳しい反応を示さないのも、批判することは中国との連帯を強めることと等しいからだ。プーチン氏はできるだけ中国への傾斜を避けつつ、極東経済を発展させるため、日本とも関係を強化するバランス外交を目指している。
ロシア政府は(北方領土を含む)クリール諸島の発展計画を進めている。経済発展の責任者となるメドベージェフ首相が22日に訪問したのは当たり前のことで、100パーセントが日本を意識した外交的シグナルとみるべきではない。強い政治家としての国内向けのイメージづくりの思惑もあるだろう。
日ロ関係の不安定な時期が続くと、互いの世論の関心が薄れ、ますます関係強化の動きが鈍る。ロシアの外交的孤立が続けば、さらに世論の保守化が進む可能性もある。年末までにプーチン氏の訪日が実現しなければ、貴重な機会が失われると危惧している。
日本が引き起こした戦争による犯罪行為のざんげを求める中国や韓国とは、ロシアは立場がはっきりと異なる。北方領土問題がなくなれば、戦争をめぐるロシアから日本へのクレームは全くなくなる。
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