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政治教育を行わない国の選挙年齢引き下げ:田中良紹 国会探検

政治教育を行わない国の選挙年齢引き下げ



田中良紹 国会探検:2015-07-05

国会で選挙権年齢を20歳から18歳に引き下げる改正公職選挙法が成立し、6月19日に公布された。来年の6月19日から施行されるため次回の参議院選挙から適用される公算が大である。18歳への引き下げは世界の趨勢に合わせたものだが、政治教育を行わない日本で選挙年齢だけを世界に合わせると何が起こるかを私は心配している。

日本の学校教育はことさらに「政治的中立」を重視する。そのため学校で現実の政治を教える事はほとんどない。しかしそこを変えないと、年齢引き下げが政治理解を歪めてしまう危険が増すと思うのである。

つまり「政治的中立」重視の教育はこれまで「政党に批判的」な政治土壌を生んできた。政党支持を国民に「一党一派に偏する考え」と思わせてきたのである。党員獲得に苦労してきた政党は選挙年齢引き下げにより若者の支持獲得の人気取りに走り、それが幼稚なポピュリズムを生み出す危険を孕むが、そのポピュリズムを見抜く目を若者は教えられていない。

そもそも選挙権は納税者が自分の払った税金の使い道について意思表示するための権利だった。だから選挙権は納税者に与えられてきた。それが誰にでも与えられるようになったのだが、それでも年齢制限を導入したのは自立した人間を対象にしたのだと思う。

ところが諸外国と比べて日本の18歳は圧倒的に自立していない。諸外国には奨学金制度の充実などで親からの自立を促す仕組みがあるが、日本では圧倒的に親がかりの学生が多い。選挙年齢引き下げを実施するには、親から自立できる仕組みの構築も欠かせないと思うのだが、そうした議論があまり見えない。

私は1990年に米国の政治専門チャンネルC-SPANの配給権を取得して、日本にもC-SPANのようなテレビチャンネルを作ろうとした事がある。C-SPANは米国議会の審議を全米7千万世帯に放送するケーブルテレビチャンネルだが、私が勤務していたテレビ局を辞めてでもC-SPANと提携しようと思ったのは、C-SPANが全米の高校と大学に議会映像を教材として使わせる活動に力を入れていたからである。

C-SPANはスクールバスの形をした中継車で全米の高校と大学を巡って歩き、学生の政治討論番組を放送すると同時に、教師に対し議会審議を教材に使うよう宣伝活動を行っていた。教師は録画された議会映像から教材になると思う議論をピックアップし、それを学生に見せ、現実の政治家の生の議論を素材に学生たちに政治を教える。

私はインディアナ州のパデュー大学で実際に授業を見たが、その政治教育の実態に衝撃を受けた。日本で教育を受けた私には現実の政治を素材にした授業を受けた記憶はない。しかし米国では1980年代から議会審議を教育の素材にしていた。日本で学生が国会を見ると言えば、バスを連ねた国会見学で、見ているのは建物だけである。政治家の議論に関心を持つはずはない。

若者が、政治を汚いと考え、政治家を尊敬せず、投票所にも行きたがらない日本と、現実の政治家の議論を授業の教材にしている米国。この差はこれからさらに開いていくだろう、しかしそれでいいのか。私がC-SPANのようなテレビチャンネルを日本にも作ろうと思った直接の動機はそこにある。

C-SPANと提携した事で私は米国の政治教育の実態をさらに知ることになった。まず上下両院の本会議場で小学生くらいの子供が走り回っている事に気が付いた。聞いてみると議員の書類運びをボランティアで子供たちにやらせているという。それが子供の心に議会の重要さを身体で染み込ませる事になるというのである。

また高校や大学の卒業式で祝辞を述べるのはほとんどが現職政治家である。若者の巣立ちの時に教訓を垂れるのは政治家の仕事なのだ。「政治的中立」に縛られた日本の学校では想像もできない。父兄から抗議の声が挙がり、社会的に問題視され、そんなことをする学校は文科省からお目玉を食らうのではないか。

そして学校ではディベートを教える。それは政治的な問題を取り上げ、学生を賛成と反対とに分けて討論を行い、勝敗を競うのである。大事なことは学生が自らの意見を述べるのではない。教師から機械的に割り振られた賛成と反対の意見を述べるのである。従って本人が賛成でも反対側に立って論争に勝たなければならない。

そうなると学生は自分と異なる意見が何を根拠にした主張なのかを知ることになる。これは民主主義にとって本質的に重要なトレーニングになる。つまり一方的に自分の意見を相手に押し付けるのが民主主義ではない事を自覚させるのである。

かつて特定秘密保護法案の採決の時、「民主主義は多数決だから多数の意見が正しい」と書いた読売新聞政治部次長を私は徹底的に批判したが、民主主義は「少数意見の尊重」にこそ本質がある。ディベートは学生にそれを教えている。

私はC-SPANと同じテレビチャンネルを作るため、旧郵政省よりも先に旧文部省を訪れ、政治教育の必要性を米国を例に説明した。このままでは日米の政治を支える有権者の意識に差がついていくという危惧を語った。しかし旧文部省の官僚が言ったのは「学生に社会党と共産党の政治家しか見せない先生がいるから駄目です」の一言だった。「もう冷戦は終わっているのに」と私は言ったが聞く耳を持ってはもらえなかった。そして私は打ちのめされた。

選挙年齢引き下げのニュースを私はそうした思い出と切り離して聞くことが出来ない。そして選挙法改正の意図は日本の民主主義の深化とは異なるところに起因しているという疑念を拭い去る事も出来ない。しかし来年の6月19日から施行される事になったのだから、政治教育の必要性を主張し続けていくしかない。

安倍政権は最近「今なぜ解釈改憲なのか」と問われ、「冷戦で安定していた安保環境が変わったから」と言うようになった。それならなぜ冷戦が終わった25年前に日本は根本的な安保体制の見直しを図らなかったのかと私は思うが、キッシンジャーに言わせれば「日本は分かりきった事をやるのにも15年はかかる」らしいから、15年くらい経たないと政治教育の必要性が課題になる事もないのかもしれない。

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