<戦後70年 揺らぐ憲法>5 「希望持てる生活」求め 「努力を怠っている」として生活保護受給者を批判する声は根強く、今のままでは3世代連続の生活保護家庭が間違いなく出てくる
<戦後70年 揺らぐ憲法>5 「希望持てる生活」求め
(北海道新聞)
■少数者に選択肢
周囲の桜と同じように満開の笑顔だった。3月末、東京都渋谷区議会の外で性的少数者(LGBT )の人たち6人が「祝 同性パートナーシップ条例!」の横断幕を掲げた。条例成立を議場で見届けた 宝塚歌劇団 出身で、同性愛者の東小雪さん(30)は「感動して胸が熱くなった」と喜んだ。
憲法24条は婚姻について「両性の合意のみに基づいて成立」と規定する。一方で条例は、同性カップルを「結婚に相当する関係」と公的に認め、証明書を発行する。法的拘束力はないが区民や企業、医療機関などに夫婦と同等の対応を求める内容だ。
東京で同性カップルを法的に認めるよう活動している赤杉康伸さん(39)=札幌出身=は、男性のパートナーと部屋探しをしていた2010年、男性同士の入居を告げたことで10軒以上の大家に断られた経験を持つ。09年に胆のう摘出手術をした際、開腹して腫瘍が見つかったらどうするかと医師に聞かれ、パートナーに判断してもらうと伝えたが、医師は「血縁もなく家族と言えないので無理」と、にべもなかった。
LGBTの人は、国内の成人の約5%に上るとする民間調査がある。赤杉さんは言う。「少数者だから選択肢が与えられないのは、やっぱりおかしい」。そして、こう続けた。「条例ができたことはうれしい。でも、憲法に明記されることが本当の望みです」
憲法が制定時に想定していなかった「新たなカップル」が、「希望の持てる生活」を送れない日々が続く。
逆に、憲法が健康で文化的な最低限度の生活を保障してもなお、「希望の持てる生活」ができない人は絶えない。
埼玉県に住む会社員男性(19)は母子家庭で育った。母親はうつ病で仕事が続けられなくなり、生活が困窮していた。公共料金を支払えず、生活に必要な水を公園でくんで暮らしていた。その後、生活保護 を受給したものの、経済的な不安に加え、中学で引きこもりになり高校進学は諦めていた。
■貧困の連鎖断つ
県は10年、貧困の連鎖を断ち切る対策として、生活保護受給世帯の中学生を対象に学習教室を始めた。男性は、県から委託を受けて学習教室を運営する「彩の国 子ども・若者支援ネットワーク」のメンバーに誘われ、勉強の遅れを挽回。志望校に合格し、卒業後はIT企業に正社員として就職した。男性は「学習教室に出合わなかったら、今も引きこもっていたと思う」と振り返る。
09年度の県内の生活保護世帯の子どもの高校進学率は86%で、県内平均の98%を下回る。一方、13年度に学習教室に通った316人の進学率は98%に上った。支援の手があれば学力を伸ばし、将来の選択肢を増やせることの証左でもある。
戦後日本は高度成長期をへて1970年代には1億総中流社会を迎えた。2000年代に入り、非正規雇用の増加などに伴って格差が拡大。今年1月には生活保護受給世帯が161万世帯と過去最多を記録した。
高校を卒業し就職できた男性のように、貧困の連鎖を断ち切れる例は多くない。子ども・若者支援ネットワークの白鳥勲代表理事(69)は「今のままでは3世代連続の生活保護家庭が間違いなく出てくる」と危惧する。
「努力を怠っている」として生活保護受給者を批判する声は根強くある。その批判を聞きながら育ち、社会の中で息を潜めて暮らすことしかできない子どもが、今もいる。
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