腰の引け方がとくに高齢者に「自民党にまかせておいてもしばらくは何も変わらないだろう」と云う今回の衆院選挙でしたが実際はとても大きな危険性を持っています
腰の引け方がとくに高齢者に「自民党にまかせておいてもしばらくは何も変わらないだろう」と云う今回の衆院選挙は、実際はとても大きな危険性を持っていることを、有権者はあまり認識出来ず、また対峙する野党もその事を打ちだ差ませんでした。ただ極右的政党が今回の選挙で敗退した事は、安倍総理が目指す美しい日本など望んでいないと思われます。
「選択」から見えたもの 衆院選結果、内田氏と大石氏に聞く
(12/20 北海道新聞)
自民、公明両党が衆院定数の3分の2を上回る議席を得て安倍政権の継続が決まった。投票率は小選挙区52.66%と戦後最低。衆院選の結果から見えたものは何か。民意の在りか、社会の課題を識者が論じた。
■不安感じ変化望まぬ国民 思想家・内田樹氏
今回の衆院選の結果を、メディアはおおむね「事前の予想通り」と報じたが、開票結果は私にはかなり意外だった。昨年の参院選と比べると投票行動はかなり変わった。比例代表の得票をみると、自民、公明の得票は若干減り、共産、民主が票を伸ばした。安倍政権の改憲・ナショナリズム路線の補完勢力であった次世代の党は勢いを失い、看板の石原慎太郎最高顧問も田母神俊雄氏も落選した。そして、基地問題が最大の争点となった沖縄では全選挙区で自民党候補が落選した。この変化は何を意味しているのか。
前回の参院選では「党組織が上意下達的に整備されている政党」が好感された。自民党、公明党、共産党が評価され、民主党、維新、みんなの党については「党内不一致」をメディアは口うるさく批判した。今回は党内規律や党首の求心力といった組織問題は前景化せず、もっぱら政策の適否について有権者は判断を行ったように私には見える。
今回の有権者の行動の意味を一言で言えば「大きな変化を望んでいない」ということに尽くされるだろう。
有権者たちは、今ここで政権交代が行われて、外交や内政の継続性が断ち切られることを望まなかった。同時に、選挙結果によって安倍政権が「信任」を得たとして、選挙の争点にされなかった改憲の動きが加速したり、集団的自衛権 の行使が具体化したり、 特定秘密保護法 によるメディアへの締めつけが始まることもまた有権者は望まなかったのだと思う。それもまた国のかたちを変える「大きな変化」だからである。
戦後最低の投票率についてはいろいろな解釈がありうるだろうが、「変化を望んでいない」ということが最大の理由だろうと私は見ている。有権者が大きな変化を望んでいる場合、あるいは自分の1票が大きな社会的変化に直結しているという手応えを感じている場合には、当然投票率は上がるからだ。今回の低投票率は有権者が「自分がどのような投票行動を取っても、それが生活に直接影響することはないだろう」と思っていることを表しているが、その無力感と無関心は、裏側から見れば、有権者の「大きな変化が起きないでほしい」という無言の願望を映し出してもいる。
事実、「国のかたちを根本から変えよう」というタイプの大言壮語をする候補者は今回の選挙では好まれなかった。与党の「争点隠し」もそのような流れの中に位置づけられる。今回与党は「ぜひとも実現したい政策があるので選挙でその諾否を問う」ということをしなかった。彼らが訴えたのは「とりあえずもうしばらく政権を担当させてほしい。どのような政策から優先的に実施するかは、そのときどきの世論の顔色をうかがいながら決めてゆきたい」ということであった。その腰の引け方がとくに高齢者に「自民党にまかせておいてもしばらくは何も変わらないだろう」という安心感を与えたのだと私は思う。
しばらくは何もせず潮目がどう変わるか見る。そのような国民的レベルでの「不決断」が今回の投票行動に伏流している。人々は今息をひそめ、「中腰」で身構えている。それはおそらくは想定外の出来事によって、われわれには制御できない何かの到来によって「いきなり日本政治の潮目が変わる」不安を肌で感じているからである。
◇
■対立軸の構築促す側面も 慶応大法学部長・大石裕氏
「驚き」がいつしか、「やはり」に変わった。そんな選挙だった。なぜこの時期に解散・総選挙なのかという疑問や批判は、選挙戦が進む中で小さくなっていった。メディアはこぞって、投票率の低下、与党圧勝を予測していたが、結果はその通りとなった。より「ましな」候補者に一票をという呼びかけは功を奏しなかった。 ソーシャルメディア の活用も低調に終わったようだ。虚(むな)しさだけが残る選挙だった。
安倍晋三首相、そして自民党は攻めの強さをいかんなく発揮した。 消費税増税 を先送りにし、 アベノミクス を争点にすえ、選挙の主導権をとり続けた。安倍政権に批判的なメディアも、有権者が景気や経済問題に強い関心をもつことから、その種の争点を積極的に取り上げざるをえなかった。もちろん多くのメディアは、財政再建、集団的自衛権、原発再稼働、沖縄基地問題、格差の拡大といった重要な問題を選挙の争点にすえようとしていたが、その努力は実らなかった。そして、選挙期間中に特定秘密保護法が施行された(12月10日)。
与党がこの選挙によって得たものは、実はほとんど何もない。自公連立政権が、来年度以降直面する、財政再建をはじめとする重要な政治課題から逃れられることはないからである。そして、その多くが国論を二分するこれらの問題に関して「決められる政治」の姿勢をとり続け、実行に移さなくてはならないからである。安倍首相が得たものがあるとすれば、自民党内での支配力を強めたことくらいであろう。実際、選挙の圧勝によって、国民の人気が比較的高く、特に外交問題では安倍首相とやや意見を異にする政治家、例えば石破茂、岸田文雄、谷垣禎一各氏の本格的な出番が少し遠のいたと思われるからである。
他方、野党はどうか。もっとも驚かされたのは、この選挙制度では野党がまとまらないと自民党に対抗できないと述べた小沢一郎氏の発言である。民主党を割って新党の立ち上げに動き、結果的に自民党政権の復活を招いた「仕掛け人」の発言とは到底思えなかった。当初、その小沢氏の支持を受けて党首選に出馬した経験をもつ海江田万里氏が今回落選した。野党第1党の党首の落選という事態は、短期的にはショックかもしれないが、野党の再編にとっては吉となるかもしれない。
メディアは野党の選挙協力に関しては、戦術面はともかくとして、実際にはかなりの戸惑いを覚えたように見えた。「復古的ナショナリズム」を主張する次世代の党、独自の支持基盤をもつ共産党を除いたとしても、「反安倍政権」というスローガン以外に、野党間で一致する政策はあまりないと思われたからである。民主党は分裂を免れるだけの議席を今回は得ることができた。党首も交代する。野党再編の軸になる可能性を残したといえる。
しかも、安倍政権がこの選挙を契機にして「戦後レジームからの脱却」という路線を今以上に強力に歩んでいこうとするならば、これまで多様な意見を抱え込むことで苦しんでいた民主党内のまとまりも進むようになるかもしれない。そうなると、メディアや世論は保守対リベラルという、比較的わかりやすい軸によって政治を見つめることができるようになるかもしれない。今回の選挙結果は、そうした政治や世論の動きを促すように思われるのである。
Comments