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NSC[の・ようなもの」で舐められる日本 田中良紹

NSC[の・ようなもの」で舐められる日本

2013-11-19 | 田中良紹氏より転載します


安倍政権の「一丁目一番地」である「日本版NSC法案」は衆議院を通過して参議院でも論戦が始まった。これとセットの「特定秘密保護法案」は衆議院での修正協議が山場を迎えている。安倍政権はいよいよ地雷原に足を踏み入れた。この先、地雷に触れずに地雷原を抜けられるか見ものである。国会の論戦を聞いていると、日本版NSCはアメリカのNSCとは全く異なる「の・ようなもの」である。アメリカのNSCは各諜報機関の情報を一元化し、政治が機動的に判断を下すための組織として存在するが、こちらは聞けば聞くほど良く分からない。情報の一元化が図られるのかも分からないし、検証のために議事録が作成されるのかも分からない。


まず日本版NSCと言っても、日本には機密情報を収集する諜報機関などないと言っても良い。内閣情報調査室や公安調査庁、あるいは外務省、警察、自衛隊などが情報収集活動を行ってはいるが、諸外国の諜報機関と比べて力の入れ方もスケールも違う。フーテンはかつて警視庁公安部を担当した事がある。冷戦中はソ連、中国、北朝鮮を対象とする防諜活動を行っていた。公安部は公安一課がソ連、公安二課が中国と朝鮮半島、公安三課が右翼、公安四課は学生運動と労働組合を担当していた。対ソ情報を担当する警察官は当時はユーゴスラビア大使館に、中国情報を担当する警察官は香港総領事館に派遣され情報収集能力を磨く事になっていた。

フーテンが担当した3年間、公安一課は一つの事件も摘発しなかった。防諜活動はスパイの動きを監視するだけで決してスパイを捕まえない。スパイは泳がせておく方が収穫は大きいのである。その公安一課長となぜかフーテンは気が合った。良く酒を飲んでユーゴスラビア時代の話を聞かされた。この人は後に内閣情報調査室長も務めたので、フーテンは内調も時々訪ねた。仕事の中身を話す人ではなかったが、一回だけ警視庁がソ連のスパイとして監視対象としていた人物の名前を聞いた事がある。大物財界人や大物政治家の名前が飛び出して驚いた。社会の一線で活躍する人の中に警察の監視対象がいたのである。そしてそれらの人々は逮捕されないので世間は全く分からない。諜報の世界とはそういうものだと痛感させられた。冷戦後、対ソ諜報を専門にしてきたCIAは存在意義を失った。CIAをどうするかの議論にアメリカ議会は2年近い時間をかけた。その結果、CIAはターゲットの幅を広げて強化される事になった。これによって日本の経済活動はCIAの監視対象となる。国際情勢が変化する中で諜報の対象が変化するのは当然である。それでは日本は冷戦後にどのように情報収集活動の対象を変えたのか。それが良く分からない。


アメリカは国民の代表である政治家が議会で長い議論の結果、CIAの存続と任務の変更を決めた。しかし日本では冷戦の終焉に伴う日本の安全保障問題を国会で議論し、情報収集機関の任務分担を決めた記憶がない。アメリカが日本を潜在的敵性国と規定し、日本経済を諜報の対象として解体作業を進めていると、当時の官僚や政治家に訴えたが、聞く耳を持ってもらえなかった。「冷戦の終焉で日本は平和の配当を受けられる」というのが当時の日本の考え方であった。日本では情報は官僚の世界の中にしかない。そして情報こそが省益の素である。従って官僚が他の役所に情報を教える事などほとんどない。外務省がアメリカ情報を独占しているため、他の役所はワシントンに許認可権で縛れる組織の出先を作らせ、そこに役人を出向させている。フーテンがワシントンにいた頃、大蔵省は東京銀行、総務省はNTT、通産省は石油公団などの出先に役人を出向させて独自の情報収集を行っていた。


安全保障分野では外務省よりも防衛省よりも自衛隊の情報力が優位に立つ。日頃から合同演習などで米軍と人的なつながりの強い自衛隊には米軍を通した情報が入ってくる。それを自衛隊は防衛省にも外務省にも秘密にする。それがしばしば衝突を生んでいた。日米同盟と言うが、軍同士の情報交流が官僚機構や政治を越えて進展しているのである。「シビリアンコントロールが効かなくなる」と懸念する声を外務省の官僚からしばしば聞かされた。こうした実態の上に作られるNSC「の・ような」組織が情報の一元化を図り、政治が機動的に動くための組織になるとは到底思えない。またそれを保証する法案にもなっていない。内閣参与である飯島勲元小泉総理秘書官の言う通り、これは「器だけ立派な砂上の楼閣」で、アメリカから情報を貰うためだけの「物乞い情報機関」なのである。


かつてフーテンは「マニフェスト選挙」に日本中が熱狂し、それが政治改革であるかのように言われていた頃、マニフェスト「の・ようなもの」を改革と呼ぶのはインチキだと書いた事がある。本物の「マニフェスト選挙」をやるなら反対ではない。しかしインチキをやっても改革になどならないと批判した。今やあの「マニフェスト選挙」がインチキだった事は明白な事実となった。それは「マニフェスト選挙」が駄目なのではなく、「の・ようなもの」を「マニフェスト選挙」と思いこんだところに間違いがある。今回の日本版NSC法案も同様である。「の・ようなもの」を本物と思い込むととんでもない間違いを起こすことになる。ところがそれに野党も賛成しているのだから呆れる。これでは日本は世界中から舐められる。

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