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なにかちがうよTPP3【安全保障に貢献するのか】米は経済優先 中国も重視

(北海道新聞6月6日)
『オバマ大統領は本当にビジネスライクだな』

米ワシントンで2月22日に開かれた日米首脳会談を終え、ホワイトハウスの大統領執務室(オーバルオフィス)を出た安倍晋三首相は、思わずこんな感想を周囲に漏らした。

会談が失敗したわけではない。環太平洋連携協定(TPP)では、米自動車業界の意向に最大限譲歩して共同声明の取りまとめにこぎつけ、米側が求める集団的自衛権行使の検討を進める意思も明確に伝えた。落胆の原因は、大統領の「返答」が期待したほどではなかったことだ。

『強い言葉なく』

昨年9月の沖縄・尖閣諸島の国有化を機に中国公船が周辺領海にたびたび侵入し、日本の実効支配を脅かす事態が常態化している。首相が思い描いたのは、中国ににらみを利かせる強い言葉だったが、会談で大統領は憂慮の念を示すにとどめた。会談後も記者団に、日米間の最重要課題は「経済成長だ」と語り、首相は肩すかしを食った格好となった。

そんないきさつを封印するかのように、首相は帰国後、TPPと安全保障を結び付けた発言を繰り返す。交渉に参加表明した3月15日の記者会見では「TPPはアジア太平洋地域の安定に大きく寄与する」と強調。4月12日のTPP関係閣僚会議では「経済的メリットに加え、安全保障上、大きな意義がある」と踏み込んだ。

日本の政権内には経済面で米国に協力する見返りに、仮に中国が尖閣を武力占領しようとしたときは「米国が盾になってくれる」(官邸筋)との外交観が根強くある。安全保障は軍事力が前提だが、経済面での日米の密接不可分な連携によって一段と体制が強化されるというわけだ。

とりわけ、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移転問題が行き詰まる中、首相にはTPPに参加表明することで、強固な日米同盟を再構築する意図が明白にあった。

だが、ことは思い通りには運んでいない。米国は日米安保条約第5条に基づき、日本の施政下にある尖閣について、共同防衛義務を負うことは重ねて明言するものの、領有権が日中双方のどちらにあるかについては見解を示さない基本姿勢を貫く。

『尖閣」本音は』

首相の外交ブレーンを務める元外務事務次官の谷内(やち)正太郎内閣官房参与の見立てはこうだ。「中国経済は米国経済にとっても重要だ。尖閣の問題は『日本に処理してもらいたい』『日中が武力衝突を起こしても米国は巻き込まれたくない』というのが本音だろう」

中国を世界市場に取り込むレールを敷いたのは米国にほかならない。米国の後押しで2001年に世界貿易機関(WTO)への加盟が承認された中国は、10年には国内総生産(GDP)で日本を抜き世界第2位の経済大国に躍り出た。米国は膨らみ続ける中国の国防費に警戒を強めつつ、経済で深く結び付いた米中関係は安定化させる選択肢を取る。

アジア太平洋地域に足がかりをつくり、自国の雇用改善を図りたい米国には、いずれは中国やロシアも巻き込み、巨大なアジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)を形成する構想がある。中国もここにきて「TPP交渉に参加する可能性を分析する」(商務省報道官)との態度を示し始めた。

オバマ大統領は7、8日に訪米する中国の習近平国家主席と会談、米中戦略・経済対話に臨む。東西冷戦下と比べてアジア太平洋地域の軍事、経済のパワーバランスは大きく変貌し、日米首脳が語らずとも外交政策が一致した時代は過ぎた。安全保障をめぐり、米国は日本と中国の関係を利害得失で見る、「ビジネスライク」な対応へと傾斜しつつある。

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