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なにかちがうよTPP2【食料自給力は保たれるのか】負の面語らず「所得倍増」

(北海道新聞6月5日)
「農業・農村所得倍増」という目標を掲げた9分5秒のスピーチに、環太平洋連携協定(TPP)という言葉はなかった。

5月中旬、安倍晋三首相が成長戦略第2弾を公表した講演。首相は「農業は無限の可能性が広がっている」と力説したが、農家が最も関心を持つTPPには一言も触れなかった。

農家が加工や販売まで手がける6次産業化市場の10倍増と輸出倍増、農地集約を3本柱に据え、首相は「攻めの農業」の陣頭指揮を執ることを強調した。

 『39%が27%に 』

首相講演ではTPPのほかにもう一つ、農政を語るときに欠かせない視点が抜け落ちていた。政府が農政の目標に掲げる食料自給率や、食料の生産能力を示す「食料自給力」の考え方だ。

2010年に策定された食料・農業・農村基本計画では、食糧安全保障の観点から、20年に食料自給率(カロリーベース)50%を目指すとされた。ところが政府が3月に発表したTPPの影響試算では、食料自給率はカロリーベースで39%から27%へ下がる。コメは数量で32%、生産額では1兆100億円も減る。

『TPPを素通りした首相の講演では、こうした負の側面も語られることはなかった。』

TPPによって自由貿易を加速させることで、外国の富裕層へ国産品を輸出し、国内向けには安い輸入品を受け入れるという論理の中では、農業は「産業」の一角でしかなく、国民の食を守るという視点は見当たらない。

その代わり、政府が、成長戦略として「攻めの農業」を叫ぶときは、所得倍増が前面に出る。参院選対策でTPPから農業界の目をそらして懐柔したいとの思惑が透けて見える。ただし、その中身はあいまいだ。

参院選公約に農業の所得倍増を盛り込んだ自民党は対象を「担い手」とした。ところが、林芳正農水相は5月下旬の衆院農水委員会で「農業・農村全体の所得で、農家個人ではない」と述べ、どの部分を倍増させるのかがうやむやになった。

『最後は金だ』

TPP交渉で、日本はコメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、砂糖など甘味資源作物の重要5品目の関税撤廃の例外化を目指す。勝ち取るのは至難の業だ。ニュージーランドのグローサー貿易相は「日本にだけ例外を認めると(他国も)『われわれにも』と言い始める」とけん制する。

政府・与党でささやかれるシナリオは、主食のコメと、沖縄対策の意味合いもある砂糖は関税を死守するものの、残りは不透明というものだ。閣僚の一人は「農業の聖域を全部取れるなんてありえない。最後は金だ」と周囲に話す。

念頭にあるのは、93年に実質合意したウルグアイ・ラウンドで組んだ総額6兆100億円の農業支援。政府の試算では、TPP参加に伴う主要農産物の生産額の減少は約3兆円。コメが3分の1を占めており、政府高官は「(コメと砂糖を聖域化できれば)それ以外は大した金じゃないから、どうにでもなる」と平然と言ってのけた。

農水省幹部は「農業にとってTPPは一つもメリットがない」とため息をこぼす。そうした中、TPP参加を最優先する官邸にとって農業・農村所得倍増戦略はわかりやすいスローガンに過ぎず、地に足のついた政策とは言いにくい。国の礎となる「食料自給」のあり方とどうつながるのかはみえないままだ。


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