TPPでアメリカの狙いは、関税よりずっと重大な邪魔者であり続けている非関税施策を日本に解除させること
TPPでアメリカの狙いは、関税よりずっと重大な邪魔者であり続けている非関税施策を日本に解除させること。
(米国議会図書館議会調査局文書2012年8月24日付け )
市場アクセス
TPP交渉への日本参加は、アメリカの通商と日本投資のおける機会を増大する可能性がある。アメリカ合州国の狙いは、米日貿易関係において、関税よりずっと重大な邪魔者であり続けている非関税施策、ある種の政府規制等を、日本に解除させることにある。現在の9ヶ国によって想定され、交渉されているTPPは、日本が維持しているこうした非関税施策の少なくとも一部を対象にすることになろう。もし日本が TPP交渉に参加すれば、アメリカ合州国と日本は、その中でこれら積年の市場アクセス問題に対処することになる、枠組みを持つようになる。
残された課題とTPP
米日経済関係をいらだたせ続けてきた問題の多くは、TPPの枠内で対応可能かも知れない。アメリカの議員や他のステークホルダーは、もし解決ができれば、日本をTPPにとりこむことへの、アメリカの支持を強化しうる“信頼構築の施策”と見なすことができるであろう、三つの点を特定している。問題点は以下の通り。アメリカ牛肉に対する日本の制限、デトロイトを本拠とするアメリカ自動車メーカーが製造した自動車の日本での市場アクセス、そして、国営の日本郵政の保険と宅急便子会社の優遇措置だ。
アメリカ牛肉の市場のアクセス
2003年12月、ワシントン州で、牛海綿状脳症(BSE、いわゆる“狂牛病”)のアメリカ最初の事例が発見されたことに対応して、日本は、他の多数の国々と共に、アメリカ牛肉輸入禁止を課した。2006年、多数の交渉後、日本は20カ月以下の牛の牛肉を認めるよう制限を緩和した。(韓国や台湾等、他国の中には、30カ月以下の牛のアメリカ牛肉輸入を許可している) アメリカ牛肉生産業者と一部の議員は、国際的監視機関が牛の年齢とは無関係にアメリカ牛肉は安全だと宣言しているので、日本は制限を完全に解除すべきだと主張している。アメリカと日本の当局者間の交渉は、この問題を解決できていない。
2011年11月12日、ハワイ、ホノルルでのAPEC指導者フォーラム会合前の、オバマ大統領との会談で、野田首相は、日本の牛肉輸入規制を改訂し、アメリカ牛肉の市場アクセスを拡大する取り組みが進行中であることを示した。ホワイト・ハウスによれば、“大統領は、こうした初期対策を歓迎し、科学に基づく、この積年の問題を解決することの重要性に言及した。野田首相によって行われている迅速な対策に励まされる思いであり、 こうした構想で彼と密接に仕事をすることを期待している。”14 2011年11月17-18日の東京での日本の当局者との会合で、アメリカ通商副代表(USTR)デメトリオス・マランティスは、アメリカ牛肉に対する制限解除の問題を話題にした。15 2011年12月、日本は、日本に輸出するアメリカ牛肉用の牛の最高年齢を20カ月から30カ月に上げるという目的で、BSEに関連する規制を見直していると発表した。
2012年4月24日に、アメリカ農務省(USDA)検査官が、中部カリフォルニアのレンダリング施設で、この病気のサンプリングをしたものの中で、牛のBSE症例を発見した。USDAは、 この牛は、人間の消費用に屠殺したものではないので“食品供給や、人間の健康にとって、決してリスクにはならない”と述べた。16 日本当局者は、最近BSEが発見されたが、アメリカ牛肉の輸出に対する政策は変えていないと発言した。
アメリカ製自動車の市場アクセス
自動車と自動車部品関連の貿易と投資は、米日経済関係の中で、非常に微妙な問題であり続けてきた。問題の根は、1970年代末と、1980年代初期、主としてガソリン価格急速な高騰に対応して、アメリカ消費者の小型車需要が増加した結果、アメリカの日本製自動車輸入が急増したことにある。
一方、アメリカ製の自動車の需要は急落した。日本製の自動車輸入制限という形での、アメリカ自動車業界の圧力と、議会からの圧力に直面して、1981年に、レーガン政権は、自発的輸出制限に合意するよう、日本を説得した。日本の自動車会社は、制限に対応して、アメリカ合州国内に製造工場を建設し、高価値の乗用車を輸出することにした。アメリカのメーカーは、日本国内での外国製自動車販売と、アメリカ合州国で製造された日本車でのアメリカ製部品使用を制限する為、日本は様々な手段を使っていると主張した。
これらの問題は、1990年代中、二国間交渉と合意の対象とされた。合意は、概して、政府規制が、日本でのアメリカ製自動車の販売を決して妨げないようにするという日本政府の約束と、アメリカ合州国で製造される自動車で、アメリカ製自動車部品の使用を増やすという日本メーカー側の自発的努力という形のものだった。アメリカ政府は、日本へのアメリカ製自動車の輸出促進プログラムを実施すると約束した。
デトロイトに本拠を置く三社の自動車メーカー-クライスラー、フォードと、ゼネラル・モーターズは、日本がTPPに参加する可能性に対し、日本政府の規制が、日本国内の自動車売り上げ中で、彼等が応分のシェアを得るのを妨げ続けていると非難している。彼等は日本の全自動車売り上げ中の、伝統的に小さな輸入車のシェア、約5%に触れている。対照的に、2010年の輸入は、アメリカでの軽自動車の売り上げの26%を占めている。
アメリカ・メーカーはまた、2010年の総売り上げ中の、アメリカ製自動車の0.2%という小さなシェアを指摘している。とりわけ、アメリカ自動車メーカーは、安全規制と、車検規制と、そうしたものの進展と実施での透明性の欠如が、アメリカ製の車の輸入を妨げていると主張している。アメリカの自動車メーカーは、日本で、自分達の車を販売するディーラーを設立する障壁にも言及した。
日本側の業界は、アメリカ・メーカーが、日本で需要がある小型エンジン車両を十分な量、製造していないのだと主張している。対照的に、ヨーロッパ・メーカーは、そうしたモデルを多く製造しており、2010年の日本国内販売中で、彼らのシェアは、2.9%である。
保険、宅急便と、日本郵便
日本は、アメリカ合州国に次いで、世界で二番目に大きい保険市場である。アメリカに本社を置く保険会社は、市場参入が困難であることに気がついた、特に、生命保険と年金保険。彼等は、日本の国内の保険市で大きなシェアを有する国営郵便制度の保険子会社、日本郵政保険に政府が与えている有利な規制の扱いを憂慮している。日本郵政は、他の業務からの収入で、保険業務を補助している。また、日本郵政の保険は、他の国内、外国、両方の民間保険会社に対するのと同じ規制を受けずにいる。同様に、アメリカの宅急便会社は、日本郵政の宅急便運送会社は、国有の親会社から補助を得ており、それが、競争上の不公平な優位性を与えていると非難している。
日本の環太平洋連携協定への参加可能性と、その意味あい
2007年10月1日、当時の小泉純一郎首相政権は、日本郵政の改革と民営化を導入し、彼の政権の主要目標とした。ブッシュ政権と多くのアメリカ企業、特に保険会社は、こうした改革を支持した。しかしながら、民主党が率いる後継政権は、改革を巻き返す措置を講じた。2012年3月12日、政府は規制の要求を緩和する法案を提出し、2012年4月27日、日本の議会が、法案を法律として成立させた。業界報告や他の意見によれば、法案は小泉政権が導入した改革を逆転するものだ。法案は、与党の民主党と、二大野党、自由民主党 (自民党)と公明党議員達による妥協パッケージだとされている。
アメリカの全体的目標
日本のTPP参加の可能性は、様々なアメリカの貿易、外交政策目標に関わっている。アメリカ合州国は、2011年11月のTPP参加の可能性を追求するという野田首相の声明を積極的に歓迎した。しかしながら、USTR ロン・カークは下記のように明記している。
交渉に参加するためには、日本は貿易自由化のTPPの高い水準に合致する用意ができていて、農業、サービスと、製造業に対する非関税施策を含む障壁について、アメリカ合州国が関心を持っている特定の問題に対処しなければならない。日本のTPPへの関心は、この構想の、この地域に対する経済的、戦略的重要性を実証している。
市場アクセス
TPP交渉への日本参加は、アメリカの通商と日本投資のおける機会を増大する可能性がある。アメリカ合州国の狙いは、米日貿易関係において、関税よりずっと重大な邪魔者であり続けている非関税施策、ある種の政府規制等を、日本に解除させることにある。現在の9ヶ国によって想定され、交渉されているTPPは、日本が維持しているこうした非関税施策の少なくとも一部を対象にすることになろう。もし日本がTPP交渉に参加すれば、アメリカ合州国と日本は、その中でこれら積年の市場アクセス問題に対処することになる、枠組みを持つようになる。
ルールに基づく貿易の枠組みと、公平な紛争処理
アメリカ合州国と日本が過去に使ってきた二国間の枠組みの欠点の一つは、そこに正式な紛争処理機構がないことである。例えば、アメリカ製自動車と自動車部品の日本市場アクセス、半導体の日本の貿易慣習や、建設サービスの日本市場アクセスを含む1980年代と、1990年代の、多数の貿易紛争は、アメリカによる一方的な行動の脅しをともなう、全体的な関係をむしばみかねない、深刻な政治問題と化した。
紛争は通常、瀬戸際で解決されたが、日本の貿易慣習の意味ある変化や、対象になっているアメリカの製品輸出の大幅な増加をもたらさないことが多かった。TPPは、WTOを越えるが、問題解決において、1対1の対決の役割を小さくするよう、WTOで用いられているような、公平な複数メンバーの紛争調停機構を用いる可能性の高い、相互に合意した一連の規則を提供することとなろう。
TPPの強化
アメリカから見て、日本は、TPPの経済的重要性を増すだろう。TPP(オリジナルの9ヶ国プラス、カナダとメキシコ)がカバーするアメリカ商品の貿易額を、2011年データに基づく、34%から、39%に増大するだろう、また、TPP内でのサービス貿易と、外国投資活動も増大するだろう。
日本は、TPP加盟国(カナダとメキシコを含む)占める世界経済でのシェアを、約30%から、38%に増大させるだろう。日本の参加は、TPP内の多くの問題で、アメリカの立場を強化する可能性がある。アメリカ合州国と日本は、以下を含む目標を共有している。知的財産権の強力な保護、外国投資の保護、貿易を促進する明確な原産地規則、サービスの市場アクセス。