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中国の「レーダー照射」「領空侵犯」は何を意味しているのか

中国の「レーダー照射」「領空侵犯」は何を意味しているのか
( 日経ビジネス)遠藤 誉(えんどう・ほまれ)より転載します

2月5日、小野寺防衛大臣は「大変異常なことであり、一歩間違えると、危険な状況に陥ることになると認識している」と述べ、外務省が中国側に抗議したことを明らかにした。射撃の際に使う火器管制レーダーの照射は、言うまでもなくかなりの挑発行為だ。  東シナ海における挑発的な行動に含まれている、中国政府の意図を分析してみよう。2012年12月13日午前11時前後、中国の航空機が尖閣諸島の上空で領空侵犯をした。この日付と時刻を覚えておいていただきたい。  昨年9月11日の野田内閣による尖閣諸島国有化の閣議決定以来、尖閣諸島周辺で中国の漁業監視船や海洋監視船が航行を続け、領海外側にある接続水域を出入りする状態がほぼ常態化していた。しかし領空を侵犯したのはこれが初めてだ。

それ以後、国家海洋局の航空機が何度か領空侵犯し、2013年1月に入ると、中国の軍用機が東シナ海上空で日本領空への接近飛行を繰り返していることが分かった。  12月13日から、領空侵犯がなぜ活発化しているのか。さっさと結論を言おう。これは「南京事件」の日である。中国の言い方に従えば「南京大虐殺」。日中戦争(中国側で言うところの侵略戦争)が始まった年である1937年の12月13日に、日本軍が南京市民を含めた中国人を大量に虐殺したとされている。南京市では、毎年この日の午前10時になるとサイレンを鳴らし黙祷を捧げる。犠牲となった人数や状況に関して日中双方に異なる言い分があるが、ここではそのこと自体は論議の対象ではないので省く。昨年の12月13日は、ことのほか大規模な「南京大虐殺記念日」の行事が行われた。  中国の国営テレビCCTV(中央電視台)の画面は、涙を流しながら黙祷をする膨大な南京市民の顔を映し、蝋燭をともす人々の姿を映し出した。そして生き証人が年々少なくなっていくので、口述による資料を集め、「南京大虐殺史研究」をより充実させていこうとしている人々の声を伝えた。また日本軍による殺戮画面の映像が、何度も何度も繰り返し放映された。

この日のCCTVは、南京軍区における空軍の超低空飛行訓練の様子も同時に伝えた。一週間で107回の超低空飛行を実施したという。 中国には「北京軍区、瀋陽軍区、済南軍区、南京軍区、広州軍区、成都軍区、蘭州軍区」の七大軍区がある。「南京軍区」はその中の一つで、「安徽省、江蘇省、浙江省、江西省、福建省、上海市」を管轄する。その総本部は南京市にあるのだが、南京軍区の超低空飛行訓練が昨年12月初旬に入ると繰り返し伝えられていたので、「何かあるな」とは思っていた。 尖閣領空を侵犯したのは中国国家海洋局所属の「中国海監(海洋監視)多用途小型プロペラ機Y12海洋調査機(B-3837航空機)」で、中国の国家海洋局のウェブサイトには、尖閣諸島領海周辺にいる「中国海監46、50、66、137船」(海洋監視船)と時間を合わせて空と海から挟み撃ちをしたと報じている。

中国ではこれを「立体巡航」と称している。尖閣諸島周辺の垂直上空は中国の領空であるという意味から、領海の巡航と同時に、領空の巡航を垂直法線上に囲んだ立体内で行うことを指している。南京市における「南京大虐殺記念集会」が大々的に行われたのは、この日に「立体巡航」を行うことが、かなり前から計画されていたものと解釈できる。 もちろん南京軍区で低空訓練をしていたのは中国人民解放軍の軍用機であり、尖閣領空を侵犯したのは中国海洋局の海洋調査機だ。軍隊ではない。しかしCCTVが連日南京軍区の空軍低空飛行訓練を放映するということは少なくとも私の経験では記憶にない。

さらに中国では中国人民政府(国務院)管轄下にある国家海洋局(行政)と、中国共産党中央軍事委員会管轄下にある中国人民解放軍(軍隊)が緊密に連携を取り、共同で人材養成や訓練をしていることが、最近では明らかになっている。「南京大虐殺」の日に合わせ、調査機や艦船を現地に送り込み、同時に上陸支援作戦にも見える軍用機の低空飛行訓練を繰り返し報道するということから、中国当局は「南京」と「尖閣」、両者をリンクさせようと目論んでいると見ていいだろう。 「南京大虐殺哀悼日」に合わせて「12月13日」に空と海から挟み込み「立体巡航」を実現した。すなわち、すべての中華民族にとって「日本軍に侵略された、屈辱の日を忘れるな」という意思表明と「領土問題」を接合したわけだ。

これは、尖閣諸島の領有権がただ単なる国際法上の問題ではなく「民族の屈辱の問題」であり「政治問題だ」と位置付けたことを意味する。 こうなると厄介だ。日中両国ともがナショナリズムの方向に動きやすくなる。資源の問題だけなら、テーブルについて会話をする可能性が開けてくるが、中華民族の屈辱や誇りといった歴史問題を絡めた方向に中国がテーブルを持っていってしまった。中国のネット空間では、「日本の自衛隊のレーダーは、中国の航空機を捉えることができなかった」と、まるで「戦争に勝利した」かのように書き立てている。NHKの報道をわざわざPDFを用いて転載し、「最初に発見したのは自衛隊ではなく海上保安庁だった!」という解説付きで、いかに日本の防衛能力が低いかを指摘し、盛り上がっている。 こうした中国国内の好戦的な気分は、CCTVで毎日報道される「日本は軍国主義国家に向かおうとしている」という報道によって煽られていると見ていい。

習近平が中共中央総書記になり中共中央軍事委員会主席になった際、最初の視察地として広東省を選んだ。日程は2012年12月7日から11日。広東省は改革開放の発祥の地だ。「新政権も改革開放を重んじる」という意味で広東を選んだことは確かだろう。 しかし、この視察は「中共中央総書記」としてのものか、それとも「中共中央軍事委員会主席」としてだったのか。服装を見ればわかる。軍事委員会主席として行動するときは、胡錦濤の場合も江沢民の場合もそうだったが、必ず軍服を着るのが決まりだ。そして、習近平は軍服を着て現れ、「広東軍区」を視察した。 習近平は広東軍区の海軍基地に行き、南シナ海を守備範囲とする艦船「海口艦」に乗って詳細に視察。甲板に上がって望遠鏡で遠方を見たり海軍兵士と談笑し、昼食時には船員(戦闘員)たちとともに船員食堂で食事もしている。その姿がCCTVで大きく映し出された。

そして三カ条の訓示。
1.どんなことがあっても、党の言うことに従うこと。それは強い軍隊になるための基本的な魂だ。いかなることがあっても、党の軍隊に対する絶対的な指導権を揺るぎなく肝に銘じるのだ。いかなる時もいかなる状況にあっても、党の言うとおりに行動し、党についていくこと。
2.いつでも戦闘ができ、戦うからには絶対に勝利を勝ち取るというのが強軍たるものの要だ。戦闘態勢の基準に沿って、常にレベルを上げ準備を怠ってはならない。わが軍が「召集されたらすぐに集まり、集まったらすぐに戦い、闘ったら必ず勝つこと」を常に確保できるようにしておかなければならない。
3.法を以て軍を治める。厳格に軍を統治することは強軍になる基本だ。必ず厳正なる生活態度と鉄の規律を保ち、部隊の集中的な統一と安全安定を確保すること。
 
習近平は「新南巡講話」と呼ばれたこのスピーチの最後に「中華民族の偉大なる復興」に触れた。 「中華民族の偉大なる復興」という言葉は、習近平が総書記および中共中央軍事委員会主席に選出された第18回党大会一中全会(第一次中央委員会全体会議)のスピーチで使った言葉だ。これはまるで習近平政権のキーフレーズのように、一中全会以降、CCTVで放映しない日はない。日本にとって重要なのは、このキーフレーズを用いることが何を意味しているかである。 復興という言葉だけみれば、経済成長を意味しているように見えるが、これには「かつてアヘン戦争(1840年)以来列強諸国に踏みにじられて植民地化され、日本侵略によって蹂躙を受けた民族の屈辱を忘れず、中華民族がいかに偉大であるかを人類に見せつける」ことをも意味する。

従って習近平政権になっても「中華民族に誇りを持て」という「愛国主義教育」は緩めず、「中国共産党がいかに日本侵略を勇敢に戦ったか」を強調することはやめないということだ。その結果、「反日傾向」は加速するだろうということを示唆している。もう一つは陸軍を中心としていた中国人民解放軍が、民族の誇りを高めるために海軍と空軍の強化に徹底した重点を傾けていくということだ。昨年11月8日の第18回党大会における胡錦濤の総書記としての最後のスピーチでも、そのように宣言している。これらすべてを象徴的に表しているのが、12月13日の尖閣領空侵犯なのである。  

時間も「11時少し前に到着し、11時10分ごろには飛び去った」という、ピッタリ「11時」を挟んだ飛行時間帯であったことに注目していただきたい。中国と日本の時差は1時間。つまり日本時間の「11時」は中国時間の「10時」。この瞬間、南京市では、近隣にまで鳴り響く巨大な音のサイレンが全市を覆い、全市民は全ての動作を止め、運転していた車も止まってクラクションを鳴らし、1937年12月13日に亡くなった犠牲者への黙祷が始まっていた。サイレンの音に合わせて、尖閣の領空を中国の航空機が飛び、尖閣の領海ギリギリを中国の海洋監視船が巡回する。 そしてサンフランシスコを始め、全世界に散らばる華人華僑が同時に街頭に出て、あるいは集会所に集まって、その黙祷に呼応したのである。私のパソコン画面には、サンフランシスコに拠点を置く華人華僑の団体代表から、「屈辱の日、南京大虐殺75周年記念日を忘れるな」というメールがCCで入っていた。 習近平体制の対日政策を読み解くのに、これほど具体的な現象はほかにない。

事態は深刻だ。射撃管制用レーダーとは、艦艇に搭載されたミサイルなどを発射する際に照準を合わせるための装置だ。2月5日にはミサイルは発射されず、その準備の練習をしただけだろうが、米国が素早く中国に警告を送ったことからも分かるとおり、これはもう一触即発の状況にあると解釈していい。尖閣問題の鎮静化には日中首脳会談が不可欠だが、1月25日、日本の公明党の山口代表と北京の人民大会堂で会談した習近平は、前向きの姿勢を示している。その際習近平は「日本がそのための環境づくりをすることを望む」という趣旨のことを述べている。

今回挑発しているのは中国側だ。 しかも中共中央軍事委員会の直接の管轄下にある中国人民解放軍の海軍が動いた。行政側の国家海洋局のミスではない。中国共産党指導体制は、中国の経済発展を保障することによって統治の正当性を主張し、貧富の格差を是正することによって人民からの支持を得ようとしている。万一にも戦争などになったら、一人っ子の命を奪うことになり、その親たちが許しはしないだろう。統治の正当性を逆に失う。だから、いかに彼らが挑発しようと、戦争に持っていくことは考えにくい。

となると、彼らの意図は日本から譲歩を引き出すために威嚇しているということになる。しかし「威嚇の範囲」と考える程度は両国で異なっている。野田内閣の時の尖閣諸島の「国有化」に対する概念の違いよりも大きい。そして今回見たように、領土問題を民族の屈辱に結び付けている限り、中国は「威嚇の範囲」を拡げこそすれ、狭めることはないだろう。なぜなら「民族の誇り」とリンクしているからだ。中国が経済的に発展すれば、自然と消滅していくどころか、「大国の威信の傷」ととらえて、エスカレートする危険性すらある。 この危険性を日中両国が見抜かなければならないと思う。

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