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復興予算の流用問題指摘したいのは『週刊ポスト』だった

現代ビジネス【長谷川幸洋「ニュースの深層」より復興予算の流用問題指摘したいのは『週刊ポスト』だったを転載します。
 
メディアを賑わせている復興予算の流用問題が参院決算委員会で取り上げられた。この話は連日、新聞やテレビで報じられているので、問題自体の詳細はそちらに任せたい。ここで指摘したいのは、この問題に火を付けたのは国会でも新聞でもテレビでもなく『週刊ポスト』だったという点である。
 
一般にはNHKが最初に報じたと理解されている。9月9日に放映された『NHKスペシャル追跡 復興予算19兆円』が話題になり、それをきっかけにこの問題を知った人が多いからだ。その番組が話題になったのはその通りだが、この問題をスクープしたのはポストである。

『週刊ポスト』が2012年8月10日号(7月末発売)で問題の構図をほぼすべて報じているのだ。NHKはポスト記事の後追いである。実は、私もつい最近まで「NHKのスクープ」だとばかり思っていた。ポストに連載コラムを書いていながら恥ずかしい次第だが、チラッと見出しをみただけで中身を読んでいなかったので覚えていなかった。
 
あらためてポスト記事をチェックしてみると、驚いたことに沖縄の道路建設や霞が関の合同庁舎、東京・荒川税務署などの改修、反捕鯨団体シーシェパードの攻撃から守るための護衛費用など、いまでは有名になった流用事例が総ざらいして報じられている。そのものずばり「19兆円復興予算をネコババした『泥棒シロアリ役人の悪行』というタイトルの5ページの記事である。
 
筆者は「福場ひとみと本誌取材班」とある。そこで福場さんに話を聞いてみた。
「この特別会計を調べれば、なにか出てくるのではないか」

---はじめまして。いま復興予算の流用問題が大変な話題になってますが、これは福場さんのスクープです。取材のきっかけはなんだったのですか?
 
もともと4月ごろから復興予算の問題を追いかけていて、最初はポストの4月13日号に「地元支援の予算を全部奪った天下り法人の暴挙~ついにシロアリ官僚が『復興予算』を食い始めた」という記事を書いたのがきっかけです。そこでは、復興を大義名分にしたクリーニング業者への補助金の背後に、厚生労働省の天下り利権構図があるという話を書きました。
 
その後、7月初めに「復興予算には6兆円も余ったカネがある」という話が新聞で報じられ、復興特別会計もあると分かって「この特別会計を調べれば、なにか出てくるのではないか」と思って調べ始めました。シロアリ官僚記事を書いたときのカンが働いたんですね。

---なるほど。どうやって調べたのですか?
 
グーグルで「復興」「予算」とか検索しているうちに「各目明細書」というのがヒットした。そしたら、ほんとにびっくりしたんですけど、予算支出がどれもこれも復興とは関係ないように見えた。「これはほんとなのか」という思いでしたね。
 
その各目明細書とは「東日本大震災復興特別会計歳出暫定予算予定額各目明細書」である。関心のある読者はぜひクリックして現物を見ていただきたいが、たしかに職員旅費から電気、ガス、水道料に至るまで各省庁の経費が千円単位でぜんぶ出てくる。一目見ただけで「これが復興とどう関係あるのか」と疑問がわく代物だ。より詳しいのはこちらだ。

「国会議員なんて、だれも読んでない」

---それでどうしたのですか?
 
私はかつてシンクタンクの「構想日本」で働いた経験があり、特別会計のことは少し知っていました。それで知人の桜内文城参院議員(現・日本維新の会。当時はみんなの党)に連絡して「この予算の使途は本当に正しいのでしょうか」と半信半疑で聞いてみました。すると、桜内さんはすでに各目明細書を知っていて「あのとおりだよ。国会議員なんて、だれも読んでないんだから」と言われた。それで記事にしようかと思って、本格的に取材を始めたんです。

---国会議員への取材は桜内さんだけですか?
 
記事でも書きましたが、あと自民党の小野寺五典衆院議員(宮城6区選出)とか。桜内さんは3月に国会で質問してるんですよ。
 
えっ、と思って、国会の議事録を調べてみると、たしかに桜内は3月27日の参院東日本大震災復興特別委員会で質問している。桜内は元大蔵官僚であり、なかでも特別会計問題に詳しい。桜内は復興予算で離党振興費や沖縄教育振興事業費などが計上されている点を指摘し「そもそも復興特別会計で扱うようなものなのか」と平野達男復興相らを追及していた。「非常に違和感のある予算になってしまったんじゃないか」と言っている。

つまり国会レベルでも、いまになって初めて取り上げられたわけではなかったのだ。残念ながら、桜内の質問は当時のメディアには注目されなかった。

---それで記事化したのが8月10日号だったんですね。
 
そういうことです。

大新聞の記者にはできない仕事がなぜできたか
 
その後、NHKがNスペで報じたのが先に見たとおり、ほぼ2ヵ月後である。NHKが報じると、まもなくテレビ朝日の「報道ステーション」や東京新聞、毎日新聞など各紙が報じ始め、一挙にラッシュ状態になった。
 
以上の展開をどう考えるべきか。私も当初、NHKが最初に報じたと思い込んでいたくらいだから偉そうに言えないが、やはりポストと福場の功績が大きいと思う。たしかに桜内は国会で質問していた。だが、それは大きく報じられず問題視もされなかった。いまとなっては、国会をウォッチすべき新聞やテレビの怠慢とも言える。
 
NHKという影響力のある大メディアがスペシャル番組で取り上げてから、各メディアが一斉に報じ始めた。そうなると「これでもか」という具合に、連日の大報道になる。それはそれでメディアの重要な役割と評価すべきだと思う。だが、だからといって福場の功績が消えるわけではけっしてない。
 
福場は大学院を出てから、シンクタンクや雑誌で仕事をした後、現在はフリーランス記者として『週刊ポスト』を中心に仕事をしている。インターネットと多少の「カン」、それに人脈があれば、こういう仕事ができるという見本だ。大新聞の記者も記者クラブで安住している場合ではない。
 
それから、もう1つ。国会議員もせっかくいい仕事をしたなら、どうやって世間を注目させ、議論を盛り上げていくかを、しっかり考えてほしい。政治は政治家だけがするものではない、という見本でもある。

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