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問題が多い自民党の成長戦略「日本再生戦略」から成長政策を考える

さらに問題が多い自民党の成長戦略「日本再生戦略」から成長政策を考える(日経ビジネス小峰 隆夫)より転載します。

自民党の成長戦略は期待できるのか。 自民党の成長戦略は、2012年8月31日に発表された「日本経済再生プラン~『産業投資立国』と『価値の創造拠点』を目指して」である。これを一読して、私は次のように感じた。
 
第1に、自民党の戦略は産業・企業重視型である。「日本経済再生プラン」では、「日本が世界でいちばん企業が活動しやすい国にするための新しい経済成長モデルを作り上げる」としており、そのため「『日本経済再生・競争力強化基本法』を制定して、海外投資の促進、成長分野への集中的な政策投入、国家戦略としての科学技術の推進などによって経済再生を図る(文章を一部省略)」としている。
 
私はこうした産業・企業優先の姿勢に賛成である。経済の目標は国民生活を豊かにすることだが、そのためには政策的に生活に直接働きかけるのではなく、まず産業・企業の活力を十二分に発揮させ、その成果を生活面に広げていくことが必要である。要するに、「生活を豊かにするためには、まずは稼ぎを増やさなければ話にならない」ということである。

第2に、民主党の成長戦略と似ている点も目に付く。省エネ、再生医療、ロボットなどを重点分野とすること、エネルギー制約克服のためにスマートコミュニティ、蓄電池、次世代自動車などを支援すること、医療・介護分野の活性化のために規制・制度改革を行うことなどは、民主党の「日本再生戦略」と同じだ。
 
もちろん、同じだから悪いわけではない。成長促進という観点から具体的に期待が持てそうな分野を絞っていくと、誰が考えても同じような方向になるということであろう。 
 
第3に、民主党の成長戦略と似ているということは、問題点もまた似ているということになる。 自民党の「日本経済再生プラン」の成長目標は、「実質3%、名目4%」となっている。これは民主党の「実質2%、名目3%」にそれぞれ1%上乗せしたものとなっているのだが、常識的に考えてその実現は非常に難しく「民主党を上回る希望的数字を出しただけ」と言われても仕方ない。
 
ちなみに、約40人の第1線エコノミストの予測を集計した、日本経済研究センターの「ESPフォーキャスト調査」(2012年6月調査)によると、2014~18年度の平均成長率(実質)予測の平均は1.2%、19~23年度は1.1%であった。実質3%という成長目標がいかに非現実的であるかが分かる。
 
自民党の「日本経済再生プラン」でも、原発を含めてエネルギーの安定供給をどう図るのか、医療・介護の制度改革をどう進めるのか、TPPについてどう対応するのかについては全く触れていない。国民に厳しいことを言えないという点では、民主党も自民党も同じなのである。
 
自民党の「日本経済再生プラン」では、「将来の市場拡大が期待される分野を特定し、税・財投などの支援を集中投入する『新ターゲッティングポリシー』を大胆に遂行する(一部文章を簡略化)」としている。必ずしも民間より将来を見通す能力が高いとは限らない政府が「大胆に」特定分野に政策を集中すると、「大胆に」間違える可能性があるというのが私の懸念である。

これに加えて、私が大きな問題だと考えているのは、自民党独自の政策を打ち出している部分だ。自民党の成長戦略には、明らかに民主党の成長戦略とは異なる発想の部分がある。「国土強靭化計画」に関係する部分がそれである。日本再生プランでは、「国土強靭化計画の効果的な実施により、国内の有効需要や雇用の創出を図ります」となっている。
 
ではこの「国土強靭化計画」とは何か。これは自民党が提案している「国土強靭化基本法案」に登場するものだ。私に言わせれば、この、「国土強靭化基本法案」は、次のような点で、時代の流れに逆行している。
 
第1に、「国主導」に回帰しようとしている。かつて日本には「全国総合開発計画(以下全総)」という仕組みがあったのだが、現在は廃止されている。これは「国が基本方針を示して、地方がそれに従う」時代から「地域のあり方は地域自らが考える」時代になったからだ。
 
ちなみに私は、役人時代の最後のポストは、国土交通省の国土計画局長であった。まさにこの全総を所管するポストである。かつて全総が地域開発の中心だった頃は、ここは花形ポストだった。全総にプロジェクトを盛り込んでもらえば、かなりの推進力になるから、所管局長の元には政治家、各自治体から山のように陳情が持ち込まれたようだ。
 
しかし、私の在任中は全く違った。当時は「第5次全国総合開発計画(正式には『21世紀の国土のグランドデザイン』)が動いていたのだが、ほとんど注目されなかった。私は、「もはや国が開発の方針を示すような時代ではなくなった」ことを強く実感した。私の頃から全国総合開発計画をやめようという議論を始め、私が退任した2年後(2005年)に国土総合開発法が抜本改正され、全国総合開発計画は廃止された。
 
ところが、自民党の国土強靭化基本法案では、まず国が「多極分散型の国土の形成」や「複数の国土軸の形成」などを基本理念とした「国土強靭化基本計画」を定め、これに基づいて、ブロック別、都道府県別、市町村別の計画を作るとしている。私には、これは再び地域政策を国主導型に戻そうとしているように見える。
 
概念的にも「多極分散型」は、1987年策定の第4次全総に、「複数の国土軸」は、98年策定の第5次全総に登場する概念だ。歴史的使命を終えた国主導型の全総をもう一度よみがえらせようとしているとしか思えない。
 
第2に、過度の効率性の追求が過度の集中を生み、国土の脆弱性をもたらしているという認識のもと「国土の均衡ある発展」を目指していることだ。国土の均衡ある発展」という理念は、歴代の全総が掲げてきたもので、強く批判されてきた経緯がある。私も局長時代に国会で何度も野党から攻撃された覚えがある。一方的な分散で均衡を目指すと、全国で同じような地域づくりが行われてしまうという批判である。
 
こうした批判の背景には、各地が個性的な地域づくりを競い合い、クラスターの形成やコンパクトシティの実現などを通じて「積極的に集中を図る」ことも必要になってきているという時代認識がある。時代は「選択的集中」を求めているのだが、強靭化基本法はそれを元の全国一律型の地域づくりに戻そうとしているように見える。
 
第3は、公共投資依存型の成長を目指していることだ。
 そもそも公共投資には二つの側面がある。一つは「供給効果」であり、公共投資の結果実現する社会資本が種々の効用をもたらすという効果である。国土強靭化基本法は、もともと大規模災害からの復興を推進し、さらには今後予想される大規模災害に耐えるような社会基盤を整備しようとしたものだ。これは「供給効果」を狙ったものだ。
 
公共投資のもう一つの側面は「需要効果」である。投資は国内需要の一項目だから、公共投資が増えれば、誰かの所得が増え、雇用が増えるという効果である。簡単に言えば、公共投資を実行すれば、お金が払われるのだから、その分景気が良くなるはずだということである。
 
もちろん、国土強靭化基本法の建前は「供給効果狙い」である。しかし、自民党の期待は「需要効果狙い」だと思われる。これにはいくつかの間接証拠がある。
 
既に述べたように、「日本経済再生プラン」では、「国土強靭化計画の効果的な実施などにより、国内の有効需要や雇用の創出を図ります」としている。また「国土全体の強靭化事業を、日本経済再生の起爆剤として、民需主導による回復に繋げていきます」とも述べられている。いずれも「需要効果」を期待する内容だ。
 
公共事業の需要効果を重視するという姿勢は、消費増税での合意の際にも明らかになっている。すなわち、民主、自民、公明の三党合意に基づいて、消費増税法第18条に、次のような項目が加わった。それは「財政による機動的対応が可能となる中で、わが国経済の需要と供給の状況、消費税率の引き上げによる経済への影響等を踏まえ、成長戦略や事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分することなど、わが国経済の成長に向けた施策を検討する」というものだ。要するに、日本は需要不足状態なのだから、消費税を引き上げて財源に余裕ができたら、自民党が主張しているような国土強靭化のための公共投資を増やせということである。

なお、この附則第18条の第1項は、しばしば話題になる成長率条項である。それは「消費税の引き上げに当たっては、経済状況を好転させることを条件として実施するため、物価が持続的に下落する状況からの脱却及び経済の活性化に向けて、平成23年度から平成32年度までの平均において名目の経済成長率で3%程度かつ実質の経済成長率で2%程度を目指した望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる」というものだ。
 
これについて「これは名目3%、実質2%が実現できなければ、消費税は引き上げないという条件を付けたものでしょうか」という質問をしばしば受けるのだが、私は「どうしてそんなばかげた質問をするのだろう」と思ってしまう。附則は「平成23年度から平成32年度の平均」となっている。32年度までの平均なのだから、それが分かるのは平成33年度である。平成33年度にならなければ分からないことが、平成26年度実施予定の消費税引き上げの条件になるはずはないではないか。
 
以上のようなことから、自民党は公共事業依存型の成長を目指しているのだと解釈できる。しかし、90年代の経験を通じて明らかになったことは、公共投資依存型の経済成長や地域づくりは永続性に欠け(サステナブルでない)、財政赤字という負の遺産を残すということである。公共事業には確かに需要創出効果があるから、それが実行されている間は成長率が高まる。しかし、いつまでも公共投資を増やし続けることはできず、それが途絶えると、成長はたちまちストップしてしまうのだ。
 
「大震災からの復旧を図り、今後の災害に備えるべきだ」ということはその通りだ。しかし、そのように必要な投資なのであれば、堂々と税金を使って投資をすべきである。国土強靭化基本法の意義を説明する段階で、自民党内では「10年間で200兆円の投資(民間投資を含んでいるらしい)」といった発言もあったようだ。しかし、その財源をどうするのかについては、日本経済再生プランには何の記述もない。ということは建設国債で賄うということであろう。そんなことをすれば日本の財政状況がさらに悪化するのは間違いない。
 
私は、2006年に出した『日本経済の構造変動』(岩波書店)という本で、これからの国土政策は、(1)国主導から地方主導へ、(2)分散中心から選択的集中へ、(3)需要頼みの公共投資政策からアウトカム(その社会資本が実現することによって利便性がどの程度高まるのか)重視の公共投資へと向かうべきだと主張した。今回の国土強靭化基本法の流れは、こうした私が考える望ましい変化の方向とは全く逆のものである。
 
以上のように、自民党の成長戦略は、産業・企業を重視するという点は評価できるが、それ以外は内容としても問題点としても民主党の成長戦略と似通っているし、自民党独自の国土強靭化計画の部分は時代に逆行している。民主党の成長戦略にも問題は多いが、自民党の成長戦略はそれにも増して問題が多いと言えそうだ。

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