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小沢氏無罪判決をどう受け止めるべきか(2)関西大学特任教授・弁護士郷原信郎

小沢氏無罪判決をどう受け止めるべきかと関西大学特任教授・弁護士郷原信郎が述べていますので転載します。

<判決における検察捜査への厳しい批判>
今回の判決の中で最も重要な判示は、検察による虚偽の捜査報告書の作成及び検察審査会への送付を厳しく批判している点である。判決は、虚偽の捜査報告書作成等の問題に関する弁護人の公訴棄却の申立てに対する判断の中で、事実に反する捜査報告書によって検察審査会が判断を誤って起訴議決を行ったとしても、「検察審査会における起訴議決が無効であるとするのは、法的根拠に欠ける」と述べて、公訴棄却の申立てを退けているが、それに関連して、弁護人の主張を「違法捜査抑止の見地をも考慮すべきとの主張」と敢えて忖度した上で、事実に反する捜査報告書の作成や検察審査会への送付によって検察審査会の判断を誤らせることは「決して許されない」と厳しく断罪した上、「事実に反する内容の捜査報告書が作成された理由、経緯等の詳細や原因の究明等については、検察庁等において、十分調査等の上で、対応されることが相当」と述べている。
 
つまり、法的な根拠がないので公訴棄却をすることはできないが、検察官による虚偽の報告書による検察審査会の判断を誤らせる行為は、決して許されない行為であり、そのような違法捜査抑止の見地から、「検察庁等」における徹底した調査や捜査による真相解明が不可欠であり、それが行われなければ、検察審査会による起訴議決という制度自体にも重犬な支障が生じかねないという見方を示しているのである。
 
この判示は、検察にとって極めて重いものである。田代検事の虚偽公文書作成に関連して、当時の東京地検幹部等多数が市民団体によって告発されており、その事件の捜査や、事件の検証のための調査を徹底的に行い、真相を解明しなければ、今回の判決を踏まえた対応とは言えないであろう。その調査の在り方については、先般、検察の在り方検討会議の元委員が中心になって法務大臣と検事総長に提出した「要請書」でも述べているように、第三者も含めた事実調査を行うことで客観性を担保する必要がある。本件判決で、調査の主体を「検察庁等」と言っているのは、その趣旨も含むものと言うべきであろう。

<検察組織のコンプライアンス問題>
小沢氏に対する不起訴処分は、検察としては当然の判断であり、今回の無罪判決も当然と受け止めているであろう。しかし、刑事司法の健全な常識からすると当然であるこの無罪判決に至るまでには多くの紆余曲折があり、それによって、検察の組織は致命的なダメージを受けることになった。
 
そもそもの発端は、3年余り前、小沢氏の秘書を比較的少額の政治資金規正法違反で突然逮捕したところにあった。政権交代が現実化する中、総選挙を控えた時期に野党第1党党首であった小沢氏に対して行われた捜査は、迷走を続けた末、検察にとって不本意な結果に終わった。その後、政権交代で与党幹事長の地位に就いた小沢氏に対して、遺恨試合のような形で特捜部が着手したのが陸山会事件であった。
 
当初、小沢氏から提供された不動産購人代金4億円の原資がゼネコンからの裏金であるとの想定で石川氏と秘書3人を逮捕したが、裏金捜査は不発に終わり、4億円虚偽記入等の形式犯だけの立件となった。
 
検察としては、小沢氏不起訴は当然の判断だったが、それに納得できない特捜検事らは、検審の議決によって不起訴決定を覆すことを画策した。虚偽記人についての小沢氏への報告・了承を認める石川氏の取り調べ状況に関して、供述調書が信用できるように思わせる虚偽の報告書を作成して検審に送付、素人の検察審査員は小沢氏の共謀を認定し、起訴すべきとの議決を出した。
 
検察が2度にわたって不起訴としているだけにより強く働くべき「推定無罪の原則」は殆ど無視され、指定弁護士の起訴によって被告人の立場に立たされた小沢氏は、あたかも犯罪者であるかのように扱われ、党員資格停止など重大な政治的ダメージを受け、また、それは、政権交代後の目本の政治の混乱にも大きな影響を及ぼした。
                  
検察の組織としての不起訴処分を、一部の検察官が検察審査会まで利用して覆そうとした「反逆行為」は、組織としての統制機能、一体性という、検察の核心部分にも疑念を生じさせることになった。まさに検察という組織の重大なコンプライアンス問題というのが、今回の事件の重要な核心の一面である。

<指定弁護士による控訴の可能性>
この事件に関する社会の当面の関心事は、今回の判決に対して、指定弁護士が控訴をするのか否か、控訴を断念して刑事事件が決着するか否かである。
 
今回の判決は、全体として、証拠の評価、事実認定、法律判断ともに極めて適切であり、控訴理由とされる点はほとんど見当たらない。唯一、問題にされる余地があるとすれば、無罪の理由とされた、4億円の借人金の記載の必要性、平成16年の収支報告書に土地取得を記載する必要性についての小沢氏の認識の問題が、公判の中で争点とされていなかったことであろう。公判前整理手続で整理された争点とは異なる点を、判決で突然無罪の理由とするのは、訴訟手続上問題があるとの理由で「訴訟手続の法令違反」を控訴理由とすることが考えられる。
 
しかし、判決の無罪理由としているのは、政治資金収支報告書への虚偽記人の犯罪を認めることについて、当該報告書が虚偽であるとの認識を欠くから犯意がないというものである。故意犯である以上、故意は犯罪成立の不可欠の要件であり、それは、検察官が当然に立証責任を負うものである。その点が、公判前整理手続で争点にされていなかったからと言って、検察官として立証不十分であったことの弁解にはならないのであり、それは「検察官役」の指定弁護士であっても同様である。
 
実質的に考えても、冒頭でも述べたように、現行政治資金規正法の下では、代表者が虚偽記人の共犯の責任を負うのは、代表者自身の積極的な関与がある場合に限られ、報告書の内容について報告・了承したという程度では共謀は認められないという刑事司法関係者の常識が、今回の判決の無罪の判断の背景にあり、判決では、それを具体的な事実認定を通して、丁寧にその理由が示されているに過ぎない。控訴しても控訴審で、その判断が覆る可能性は殆どないのであり、今回の事件による政治の混乱をさらに長引かせることになる控訴をすべきではないことは明らかである。
 
そもそも、指定弁護士の職務とされている検察審査会の起訴議決に基づく「公訴の維持」が、控訴にまで及ぶのかも疑問である上に、指定弁護士の実務上の判断としても、控訴の判断が行われる可能性は極めて低いと考えられる。

くもう一つのコンプライアンス問題>
5月10目の控訴期限の経過によって、政権交代後の目本の政治に重犬な影響を与えるとともに、検察に対する国民の信頼を失墜させる結果を招いた陸山会事件は、石川知裕氏ら秘書の控訴審を除いて、一応の決着を見ることになるであろう。 しかし、小沢氏にとっては、自らに対する刑事事件が確定した段階で、行うべき重要な事柄が残されていることを見過ごしてはならない。
 
それは、睦山会という政治団体の組織の代表者として、政治資金処理に関する組織のコンプライアンス問題について総括し、反省すべき点を反省することである。
 
今回の判決の認定事実によると、小沢氏の資金管理団体である陸山会の会計処理は、会計に関して殆ど素人に近い秘書の石川氏や池田氏に委ねられ、余りに杜撰なものであり、何億にも上る高額の不動産を取得したり、その資金に関して関する銀行からの融資を受けるなどの多額の資金移動が行われたりするのに相応しいものとは到底言えないものであった。それが、前記のように、虚偽の認識を否定できない「事務処理上の問題」につながったものである。
 
小沢氏の政治資金に関して、実際にどのような問題があるかはわからない。しかし、少なくとも、今回の刑事事件で明らかになった事実から判断する限り、本件の本質は、政治資金の会計処理の体制があまりに貧弱であったために起きた陸山会の上地取得をめぐる会計処理の混乱によって生じた政治資金処理上の問題である。それが、「歪んだ正義」を振りかざす特捜検察と、それと一体となったマスコミによって、巨額の政治資金をめぐる「政治家の犯罪」のように扱われ、「政治と金スキヤンダル」に発展してしまったというのが実態である。
 
そのスキヤンダル自体は、今回の判決が確定すれば一応の決着がつくことになるであろう。しかし、小沢氏にとっては、その段階において、絶対に避けては通れない問題がある。それは、そもそもの原因となった陸山会という政治団体組織の政治資金の会計処理をめぐるコンプライアンス問題について、その組織のトップとして、きちんとした総括・反省を行うことである。何もしないで良いということには決してならない。
 
とりわけ、小沢氏は、日本の政治において今後も重要な地位を占め、大きな影響力を持つことを目指して活動していくのであれば、政治資金の会計処理という面に関して、これまでのように「すべて適法に処理している」というだけではなく、「適法で適切な政治資金会計処理が行える体制整備を行う」ことが不可欠であろう。
 
小沢氏にとって、今回の問題がこれまで「政治と金スキヤンダル」として刑事事件に関連づけられていたために、政治資金会計処理の問題に言及できなかった面もあると思われるが、今回、その刑事事件が一応の決着を見る段階に至ったのであるから、もはや、その問題から目を背けることは許されない。
 
小沢氏自らが、判決で指摘された点を中心に、政治資金の会計処理に関する事実関係を整理し、このようなコンプライアンス問題を発生させた原因について総括・反省する必要がある。それによって、本当の意味で、陸山会をめぐる問題について、小沢氏としてケジメをつけることできるのである。

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