小沢一郎・週刊朝日独占インタビュー 「官邸は能天気だ!」(下)
小沢一郎・独占インタビュー 「官邸は能天気だ!」(下)
消費増税の行方と解散時期週刊朝日2012年01月27日号配信
最大の山場だった民主党の小沢一郎元代表(69)の被告人質問が終わり、陸山会裁判の実質的な審理は終了した。その直後、野田政権は発足からわずか4カ月で内閣改造を断行し、消費増税法案の年度内提出に向けて狙いを定めた。政局はにわかに動き出している。"剛腕"は何を考え、狙っているのか。被告人質問の夜、本誌の単独インタビューに答えた。
◆法案は通らない、そして解散に...◆
--小沢さん自身は、今後の政局がどうなったらどう動くというシミュレーションはしているのですか。
考えていますよ。やはり外部要因としては、世論調査の影響が大きい。なぜかというと、いまの民主党議員はマスコミの世論調査結果に敏感に反応して、すぐに右往左往するでしょ。その時々の国民の雰囲気が党内に伝わり、「これでは、とてもダメだ」という話になってしまう。
--前回のインタビューで小沢さんは「年内に衆院解散がある」と断言しましたが、こんな状況で野田首相は解散できますか。
年内に解散・総選挙はあると思います。だけれど、野田さんができるかどうかはわからない。
野田首相は「解散する」と脅しているけれど、野党が「解散しろ」と言っているんだから、脅しになっていない。あれは本当に不思議です。「解散するぞ」と言っても、誰も驚きません。野党としてはむしろ、解散してくれるならば、なおさら法案を通さないほうがいい、ということになるんです。
--解散・総選挙があるとすれば、野田首相が代わったときということですか。
このまま野田首相が辞めざるを得ない状況になるかもしれませんが、そこで首相が代わっても、結局、選挙管理内閣ですね。「夏までに選挙します」とか約束して交代する以外ないんじゃないでしょうか。
--その場合、選挙の争点は何になりますか。
恐らく消費増税法案は通らない。それで野田首相が代われば、民主党全体が消費増税反対ということになる(笑い)。やはり、これはわからないですね。政界再編の動きになるかもしれないし......。
いま解散して選挙になっても、民主党も自民党も過半数を取れません。票はほかに行ってしまう。
世論調査では、みんなの党の支持率が上がっていますし、橋下徹大阪市長の「大阪維新の会」が出てくれば、関西は維新の会に取られてしまう。地方では何だかんだ言っても自民党が強いし、浮動票がこなければ、民主党は勝てません。
民主党はとにかく、マニフェストの原点に戻らなければ、何を言っても、何をやっても、国民に信用されません。民主党に限らず、既成政党のすべてが信用されなくなっている。だから、まだ世間で中身がよく知られていない、みんなの党や維新の会に浮動票が行ってしまうんです。
--どうするんですか。
僕は、みんながのほほんとしているのが不思議でならない。ヒステリックなくらい本気にならないといけないはずなんですが......。
このままでは、国民は政党不信、民主主義不信になってしまう。それがいちばん怖い。どこも過半数を取れないとなると、もう何も決められません。政権すら決まらない。悲劇ですよ。
現時点では、僕は民主党でやり直したいと思っています。ただ、いまのような体質、態勢で本当にやり直しがきくか、ということです。すべては、そこのところですね......。
--小沢さんは1月3日に、地元・岩手の被災地に入りました。昨年3月に県庁を訪れましたが、被災地入りは震災後初めてでした。どのような印象でしたか。
予想どおりひどいものです。僕がかつて街頭演説したり戸別訪問したりした場所が、みんななくなっちゃっているんだもの。
今回は、岩手県の達増拓也知事が「正月は被災地の激励かたがた一緒に回ろう」というので行きました。僕が帰るなんて誰も予想していなかったから、みんなびっくりしていましたよ。地元は「帰ってくるわけねえ」と思っていますからね(笑い)。みんな僕の立場も、裁判を抱えていることもわかっていますから、お互い激励し合いました。「オレもがんばっから、みんなもがんばれい!」ってね。
震災直後から達増知事と打ち合わせながら手を打ってきましたが、現地の見舞いなどは若い人たちに任せて、僕は当面の応急手当てと制度を整えることに専念してきました。
今回、被災地を回って改めて強く感じたのは、やはり基本の制度を改革しないと、この国はダメだということです。一つは危機管理制度の確立。もう一つは中央集権から地域主権への転換です。財源と権限を地方に移すことです。そして、福島原発事故への対応ですね。やはり小手先ではダメです。根本から変えないとどうしようもない。
確かに、被災地には復興関連で多額のカネが入ってきていますが、基本的ビジョンが何もないままです。復興景気で恩恵を受けている人もいますが、被災地全体の、国民全体の暮らしをどうするか、という視点がありません。
◆世界経済の危機、僕なら対策ある
--本来は国がしっかりやるべき話ですよね。
そりゃそうですよ。だからまず、この国の旧体制を打破しなくてはならない。まるで橋下市長みたいな主張になっちゃいますが(笑い)。実は彼とは、旧体制をぶっ壊さなきゃ新しい国民のためのシステムはできない、という考えでは共通しています。これは僕が20年近く前に『日本改造計画』を出したころから掲げている主張で、僕が言い出しっぺだと思っているんですけれどね。
本当は、大震災後の今が官僚の旧体制をぶっ壊すのにいい機会なんです。旧態依然の官僚機構をつぶして、官僚の能力をちゃんと発揮させる仕組みを作らないといけない。政治家がきちっとした理念を示し、具体策を示せば、官僚は絶対についてくる。僕は確信を持っています。だからこそ、政治家が官僚を納得させるだけの見識と能力をもっていなきゃいけないんです。
日本はもうおかしくなってしまっている。それなのに、官邸が能天気なのが不思議です。自民党政権時代の末期も首相が1年ごとに代わりましたが、それでも当時の首相たちは日本のことを一生懸命考えていたと思います。だけれども、民主党はなんか能天気なんですね。権力を楽しむのはいいけれど、実態は官僚任せになってしまっているのが問題です。
--ユーロ危機を持ち出すまでもなく、世界経済は深刻な状況です。今のような政治の混沌は、この国の致命傷になりかねません。
本当にそう思います。致命傷だと思いますよ。だから、そのときに日本人が、民意がどう動くかですね。
ユーロ危機は、どうしようもないところまできています。米国だってどうなるかわからない。この3~4月あたりは、大変なことになっているんじゃないか。そんな気がします。世界経済が混乱し、中国経済が減速して落ち込んでいったら、日本経済も大きなダメージを受ける。そんななかで政治が機能しないのでは、どうにもなりません。
--対策はないんですか。
僕はいま、何かできる立場じゃないですから。
--立場だったとすれば?
その立場になれば別ですよ。それは、いくらでも方法があります。日本には能力もお金もあるんですからね。思い切ってやれば、やりようはいくらでもありますよ。