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宗像 紀夫元名古屋高検検事長と郷原 信郎元検察官の対談②

検察審査会について
宗像
検察審査会というのは国民の中から選挙人名簿に基づいて、くじ引きで選ぶ、だから非常に偶然性、選ばれた人たち11人が出てきて、事実認定をやるわけですが、まあ、法律的な知識を持っている持ってないは関係ないんですね。ですから、持ってない人が多いんだろうと思います。そういう人たちが集まって、それを補助する弁護士はいるわけですが、そういう人たちの間で、検察が提出した不起訴の証拠を見ながら、判断するわけですが、検察のほうは、この証拠が本当にどういう意味を持つか、一つ一つの証拠をわかってるわけです。

だから、自白調書みたいのがあっても、これは価値がないとかね。これは具体性が無いから裁判で持たないということはわかっているわけです。

だから、検察は証拠十分ではないと、いうことで不起訴にするけど、ぼーんとそれがその検察審査会、例えば石川さんの調書なんかが出ちゃうと、これは、共謀、喋っているじゃないですか、と、小沢さんに報告し、承認を受けたと書いてあるじゃないですか、とこう、検察審査員は思いますわね。

そういうことでもって、ようするに疑いが強いんだから、検察は起訴しないけれども、起訴して裁判所で決着つけましょうよ、と。これが基本的な考え方なんですよ。
郷原
検察じゃないと起訴できない、というのが日本の刑事司法の制度であったんだけれども、それが、その検察の権限を一定の範囲で制限すべきだと、いうことになったんですよ。

一番大きなきっかけになったのは、福岡地検次席検事が裁判官の妻に情報を漏えいした。それで、検察が全部決めれるというものを一部変えようということになって、この検察審査会が二回起訴相当の議決をした時に起訴させることになった。しかし、それが存在意義があるとすると、検察が組織としておかしな不起訴にしてしまう可能性が非常に強い場合には、確かに嫌疑の問題についてもですね、強制起訴ということもありうると思うんですよ。

たとえば、警察の事件とか検察官が法廷で偽証して問題になった事件とか、こんなの検察に判断しろと言ったって、絶対起訴しませんから。そういう事件、その権力側の事件について、検察審査会の権限を強化するのならわかるんです。ところが、検察が本当に暴走につぐ暴走を重ねて、これで力尽きたのに、二弾目のロケットが今度は検察審査会から出てくと。こんな無茶苦茶な話はないんですよ。
宗像
検察がある思惑をもって起訴しない、これをチェックするのは検察審査会なわけです。
だから、チェックするのはいいんですよ、だから起訴しろっていうのもいいんですよ。
他にいくつかありますけどね、JR西の事故の件とか、明石の花火の警備の。いずれもみんなね、危うい感じの事件です。
郷原
検察官の起訴の場合、確か99.何%が有罪です。だから、起訴されたら、みんなもう有罪のように決めつけてしまうんです。でも、明らかにこの検察審査会の強制起訴っていうのは違うんですよ。検察は逆に不起訴だって言っているわけですから。無罪の推定が強く強く働かないといけないのに、今回の事件なんか、検察審査会のこういう手続きなのに、検察の起訴と同じように起訴されたんだ、こんなものは有罪だと。
宗像
だから、2年前からこの制度できたんだけれども、この制度がもしなければ検察が不起訴にして、その後検察審査会からね、起訴しろというのが出てもね、また証拠を検討してダメだったら、それでもう小沢事件は終わってたわけです。
郷原
重要なことはですね、石川さんが拘留されてた、身柄を拘束されてた、まさに問題になっている調書が取られたときの状況が、威迫だとか利益誘導があったんじゃないかというふうに思われるということなんですよ。
少なくとも、身柄を取られている時の状況もですね、まあ、こういうやり方をやってたんじゃないかということが、推測されるということなんですね。しかも、起訴後の調べっていうのは普通はやらないんですよ、もう。起訴された後ですから。そんな起訴後の調べで、まだこんな無理なことを言っているというのは、よっぽどその前に無茶な調べをしてるんだろうと。
宗像
それでこの内容ですけれども、これは郷原さん言われたように、ここの時の取り調べが特に問題だということじゃないんですよね。ここの調べでまあ、「あなたの出方によっては再逮捕もできますよ」と、簡単に言うとですね、言ってるわけですよね。

だから、任意の段階、任意捜査でこんなことを言うということは、これ、身柄で入っているときなら、すごいことになっているんじゃないの、と。いうふうに裁判所はですね、おそらく、認定、「推認」すると思うんですよ。ですから、この時におだやかだったかどうかっていうのは関係ないです。
郷原
石川さんはこの取り調べ検事、この時の取り調べ検事についてはあんまり悪感情持ってないんですよ、実は。むしろ、その後出てきた副部長ですね。副部長の調べが無茶苦茶だったらしいですよ。ですから、石川さん自身は、この時にテープを録ること自体も、内心ですね、かなり抵抗があったと思うんですよ。だから、まあ、そんなに意図的にですね、検事をその不当な取り調べのほうに誘導しようとしてるようには思えないですよね。
宗像
全部聞くとね、「前にこう言われましたよね」とか「こういうふうに私は言われてきたんですよね」とか、まあ誘導的な引き出すかたちはありますよ。だから、それがその極度にやっているということではないけれども、石川さんとすれば、後でこれ使うつもりでやってるんですから、検事のほうは全く友好的な雰囲気でやっているわけですから。だから、そこで価値は割り引いて考えないとダメだと思いますけどね。
この元になった取り調べがどうだったかというのはわからないけれども、ようするに、「あんたの出方によっては、もう一回別な事件でもね、逮捕できるんだよっていう、くらいなことを言って調べたら、即、それは証拠能力が無いと言って、そこから排除され、却下されるようなことになるかというと、今までの日本の刑事司法はそうじゃなかったと思いますね。
だから、そういう意味では、この石川さんらの判決を下した裁判所は、非常にその厳格に扱ったと。

石川氏の録音テープが小沢裁判で
郷原
石川さんの公判では、これは任意性が問題になって、自分自身の証拠請求が却下されたんです。小沢さんの裁判では、小沢さん自身ではない、石川さんの供述調書が採用されるかどうかという問題なんで、今度ちょっと、判断する事項が違ってくるんですよ。

この石川さんの裁判では任意性です。任意性というか、ほんとに本人が自分の気持ちのとおりに話したかどうか、ということが問題なんですけれども、小沢さんの裁判では法廷での供述と、この供述調書の供述と、どっちが信用できるのかと、特に供述調書のほうが信用できるっていえるのかどうかっていうことが問題なんです。そこで、こういうような石川さんの裁判で認定されたような、テープで認定されたような状況があると、これは特に信用されるとはとても言えない、という判断になるんじゃないかというのが一つの見通し。法廷供述との関係ということになってきます。
ただですね、普通はですね、検察官調書って具体的で迫真性があって、それ自体が信用性があるんですよ。ところが石川さんのこの却下された調書は、ほんとにふわーとした曖昧なものでしかないから、比較の対象というのはちょっと普通の事件とは違ってくることは間違いないと思います。
宗像
まあ、だから検察のほうは、これでは公判に行って持たないと、有罪確定できないと、目減りすると、起訴した時に10であっても、公判行くと7くらいになっちゃうと。そうすると危ないっていうんで止めたと思うんですが、ただ、秘書の方々の裁判と同じように、証拠を却下するかどうかっていうと、私は、まあ、違った観点になる可能性もあると。というのは、三人の秘書の裁判長は、非常にまあ厳格過ぎると、今までの例から云うとですね。

小沢裁判の行方
宗像
これは、率直に言ってですね、有罪を獲得するのは非常に難しいと私は思っています。
起訴した時点で言ってみれば十字架を背負っているわけですから、検察は証拠が十分ではないと言っている。そこで、5割以上、6割、7割くらい。
それで、私は弁護人、小沢弁護団の冒頭陳述書を読むと、非常に激烈にいろんなことを言ってるんですが。まあ、簡単に言うと、この事件は民主党潰し、小沢潰しで、それで画策した検察の謀略だと、こう最初に言って、しかも検事の取り調べの状況について名指しで、誰検事はこういう取り調べやったと全部言ってるわけですよ。
それは恐らく法廷で全部立証するはずですよ。立証すべき事項を書いているんですから。そうしますと、私はまあ、わかりませんが、結構目減りする供述が多くなって、元の形がない格好になる可能性もある。
郷原
まず、秘書三人の裁判は、先ほども言ったように水谷建設の裏献金の立証を認めて、その関連性を認めたために引きずられてこんなになってしまったという要素が強いと思うんです。それは、小沢さんの裁判と全然関係ないんです。水谷関係は立証も何もしようとしてませんから。そこが全然、まず違います。それともう一つはですね、

今回、弁護人が明確に主張したのがですね、4億円に関してですね、小沢さんから現金が出てますね。で、融資の4億円も出ている。そして、少なくても収支報告書には小沢さんからの4億円の借入金の記載はあるんですよ。前、サンデープロジェクトで私が言った話です。じゃあ、何故、4億円の記載があるのに、さらに虚偽記入になるのかと、いうと、これが書いてない、現金の部分が書いてないっていうのが検察の主張なんですよ。

ところが、今回、弁護人が明確に主張したのが、このおカネ(小沢氏の現金)は、一時的なこれ(銀行融資)が出るまでのつなぎで、そのお金は定期預金、陸山会名義の定期預金、それに代わっているんだと。ということは、小沢さんが立て替えたお金が、陸山会の定期預金名義になって、担保提供されただけなんだと、こう言っているわけですよ。そうであれば、これ小沢さんのお金ですから、陸山会の資産として書く必要はないんです。この主張は、実は一番、理にかなっているんですね。
宗像
もっと分かり易く言うと、経済的に見れば、小沢さんが4億円出して、それで、銀行経由でもなんでもいい、それで本件は土地売買がなされていると。だから、経済的にみると、もうね、4億円が動いたというのは書かれていると。ところが、検察は、細かい一つ一つの出入りをね、ぴしっと書かなきゃいかんと、形式的な考え方なんですよ。その違いなんですよ。
郷原
全体としてみたら、土地代金は4億円弱ですから、そのお金を小沢さんから借りました。
それで土地買いましたと、いうことはちゃん書かれているんですよ。
宗像
それは、だから政治資金規正法をどう捉えるか、ということにかかってくるんですよ。
郷原
例えばですね、政治家が、政治献金がたくさん入ってくる時とそうじゃない時があって、足りなかったら政治家が立て替えるじゃないですか。そんな出入りまで全部書かなくちゃいけないってことになったら、全ての政治家がみんな形式犯でやられますよ。

それが、こっちなんです。水谷建設の裏献金が実証できる、そういう見通しで始めたんです。
宗像
だからね、それが実証できない時点で、この事件は終わってるんですよ。
郷原
終わってる。これは立証できなかった。ええ、負けなんですよ、もう。
宗像
水谷建設ってのは他の事件でも信用できない部分がいっぱいありますから。立証責任はない、検察官、おかしな金だっていう検察官にあって、こちらが持ってる金、家にある金、出す金、どこからって説明する必要はない。

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